Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。

2018年11月

 珍しく50時間くらい残業した月だったんですが、なんでこんなに本を読んでいたのかは謎。たぶん、ストレス解消の一環として本に没頭したかったのだろうとは思うけれど、よく時間の捻出をしたなとは思う。平日はとにかく仕事、代りに休みの日に狂ったように読んでいた。
 mediumにも11本レビューを書いた。該当本は下にリンクを貼っているのでそちらを参照されたい。

10月の読書メーター
読んだ本の数:35
読んだページ数:11494
ナイス数:57

地下鉄道地下鉄道
読了日:10月03日 著者:コルソン ホワイトヘッド,Colson Whitehead
核の誘惑: 戦前日本の科学文化と「原子力ユートピア」の出現核の誘惑: 戦前日本の科学文化と「原子力ユートピア」の出現感想
博士論文をもとにした著作、と言うことを意識せずとも非常に意欲的な一冊。科学史研究を行う中で期せずして起きた3.11とそれにまつわる様々な言説は中尾自身に迷いを与えたとあとがきに記されているが、そうした迷いの中で産みだされたのがこの大著だとするならば、現代的な意義は非常に大きい。また、中国や北、あるいはトランプのアメリカなど、まさに核の「誘惑」は常に身近にある以上、私たちの世界はまだまだ科学の歴史の途上にあるのだと本書を読む中で強く感じた。 https://medium.com/p/23ee2edf63c2
読了日:10月03日 著者:中尾 麻伊香
アベノミクスが変えた日本経済 (ちくま新書)アベノミクスが変えた日本経済 (ちくま新書)
読了日:10月03日 著者:野口 旭
絶歌絶歌感想
当初読むつもりはなかったが仕事柄。いろいろ思うところはあるが、大阪姉妹殺害事件の山地悠紀夫と自分を比較するくだりが印象に残る。少年Aも山地も、常人では考えられない犯罪行為を犯している、一種のサイコパスと言えるだろう。だが山地は少年院時代に更生できないまま退院し(少年Aとは種別の違う少年院だという指摘は必要だが)、他方で少年Aは少年院時代に読書や溶接の資格取得を通じて内省や職業経験を深めて、社会復帰を果たしている。更生という観点でAと山地の違いを生んだのは何だったのかを考えると、複雑な思いになる。
読了日:10月07日 著者:元少年A
独り舞独り舞感想
後半の構成がちょっと予定調和なんじゃないかなとは思うが、母国の台湾でも、留学で訪れた東京でも、逃避行で訪れたシドニーでも主人公はずっと独りのままで、その痛みを書くことができるのは、作家自身がたどってきた経歴とセクシャリティをキャラクターに反映させているかだろうな、と素朴に思う。
読了日:10月07日 著者:李 琴峰
プルーストを読む―『失われた時を求めて』の世界 (集英社新書)プルーストを読む―『失われた時を求めて』の世界 (集英社新書)
読了日:10月07日 著者:鈴木 道彦
失われた時を求めて(10) 囚われの女I (岩波文庫)失われた時を求めて(10) 囚われの女I (岩波文庫)感想
アルベルチーヌを「所有」してからの私がとてもキモイ巻でした。アルベルチーヌの台詞が所々とてもかわいいのが救い。あと所々にユダヤ人差別がはいってくるのは時代性かな。
読了日:10月07日 著者:プルースト
市場リスク 暴落は必然か市場リスク 暴落は必然か感想
マーケットに様々な金融商品が開発、投入されることで不確実性はどんどん増すばかり。安易な規制から逃れつつマーケットをまともにする手段画レバレッジをやめろ、というのはまあ無難だがなるほど。複雑化したマーケットを単純化してほしいと願うのは、しかしそれはまた遠い願いだなとも思うが。これ、リーマンやサブプライムより前の本なのでなかなかしみじみ。
読了日:10月10日 著者:リチャード・ブックステーバー
正義論正義論
読了日:10月11日 著者:ジョン・ロールズ
1989年12月29日、日経平均3万8915円: 元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実1989年12月29日、日経平均3万8915円: 元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実感想
個人的な回顧録かなと言う感じ。
読了日:10月13日 著者:近藤 駿介
自己語りの社会学—ライフストーリー・問題経験・当事者研究自己語りの社会学—ライフストーリー・問題経験・当事者研究感想
依存症について書かれた部分が気になって読んだが、全体として思った以上に面白かった。ライフストーリー、あるいは自己語りといったこの分野はもう少し堀り下げてみたい。
読了日:10月13日 著者:
屋根裏の仏さま (新潮クレスト・ブックス)屋根裏の仏さま (新潮クレスト・ブックス)感想
https://medium.com/@burningsan/73548c80eba2
読了日:10月13日 著者:ジュリー オオツカ
ディレイ・エフェクトディレイ・エフェクト感想
第158回芥川賞候補。選評ではそうそうに脱落したようだが、SFと現代文学の最前線を行く宮内らしい小説には違いない。あの戦争も、3.11を経験した東京ではまた別の意味を持つのかもしれないと思うとなるほどである。ミステリーとしての要素がせつない。他だと「空蝉」はよかった。「阿呆神社」はそうかこういうのも書く人だったなと。 https://medium.com/p/31e44702e0b
読了日:10月14日 著者:宮内 悠介
寝ても覚めても: 増補新版 (河出文庫)寝ても覚めても: 増補新版 (河出文庫)感想
映画を見て改めて。
読了日:10月15日 著者:柴崎友香
住宅政策のどこが問題か (光文社新書)住宅政策のどこが問題か (光文社新書)感想
そもそも住宅にかかわる政策が諸外国に比べてとぼしいことや、公営住宅も老朽化などで自治体の重荷であること。戦後一貫して家族が住まう住宅を企業が家賃補助するというかたちでしか、高い家賃を補填するすべがない。住宅扶助のような社会政策というよりは、もっと中間層の利益になるような政策が必要なのだろう。あとがきでは住まいや住宅の政策や諸問題にかかわる研究のとぼしさも指摘されている。
読了日:10月16日 著者:平山洋介
青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない (電撃文庫)青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない (電撃文庫)感想
https://medium.com/@burningsan/9ec6e6366d11
読了日:10月16日 著者:鴨志田 一
青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない (電撃文庫)青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない (電撃文庫)感想
https://medium.com/@burningsan/39e563eb1474
読了日:10月16日 著者:鴨志田 一
精神障害を哲学する: 分類から対話へ精神障害を哲学する: 分類から対話へ感想
現象学についてのくだりと、当事者研究についてのくだりがよかった。
読了日:10月19日 著者:石原 孝二
青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない (電撃文庫)青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない (電撃文庫)感想
https://medium.com/@burningsan/2390b700b6bb
読了日:10月19日 著者:鴨志田一
あとは野となれ大和撫子あとは野となれ大和撫子感想
https://medium.com/p/31e44702e0b
読了日:10月19日 著者:宮内 悠介
「新自由主義」の妖怪――資本主義史論の試み「新自由主義」の妖怪――資本主義史論の試み感想
まだまだ勉強が足りないなと思いながらも面白く読んだ。妖怪としての新自由主義、という表現は言い得て妙。
読了日:10月20日 著者:稲葉 振一郎
ジェンダー写真論 1991-2017ジェンダー写真論 1991-2017
読了日:10月20日 著者:笠原 美智子
シン・浪費図鑑 (コミックス単行本)シン・浪費図鑑 (コミックス単行本)
読了日:10月20日 著者:劇団雌猫
BOOK BAR: お好みの本、あります。BOOK BAR: お好みの本、あります。
読了日:10月21日 著者:杏,大倉 眞一郎
高架線高架線
読了日:10月21日 著者:滝口 悠生
生まれてこない方が良かった―存在してしまうことの害悪生まれてこない方が良かった―存在してしまうことの害悪感想
文章が読みづらい(と言うか表組みの問題かもだが)ので時間がかかったが、ちゃんと読むのは3章まで、強いて言っても4章まででよいかなと言う感覚。基本的に前半部分に主張のエッセンスは入っているので、妊娠中絶や人類絶滅については著者の哲学を事例分析している感じ。
読了日:10月22日 著者:デイヴィッド ベネター
レズビアン・アイデンティティーズレズビアン・アイデンティティーズ感想
レズビアンとはどのような存在として認識されてきたのか、という視点は百合を考えるためにも重要かなと。あとやっぱり竹村和子はちゃんと読むべきですね。
読了日:10月23日 著者:堀江 有里
市場って何だろう: 自立と依存の経済学 (ちくまプリマー新書)市場って何だろう: 自立と依存の経済学 (ちくまプリマー新書)
読了日:10月25日 著者:松井 彰彦
青春ブタ野郎はシスコンアイドルの夢を見ない (電撃文庫)青春ブタ野郎はシスコンアイドルの夢を見ない (電撃文庫)
読了日:10月25日 著者:鴨志田一
青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない (電撃文庫)青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない (電撃文庫)感想
https://medium.com/p/6f39408da1ac
読了日:10月27日 著者:鴨志田一
焔感想
 あまり好意的には読めなかったというのが率直な感想で、どこからどう書いたらいいかが難しい。
 星野の小説をちゃんと読むのは初めてだが、オピニオンの一人としても新聞などで文章を寄せていることが(特に震災以後は)多く、そういったところでよく名前や文章を見かける。なので、星野智幸という人がどういう問題意識を常日頃持っているのかはなんとなく知っていたし、この本を読む中でも、ああやはり震災以後の世界観の上に明確に小説を書いているんだな、ということはよく分かった。だがそれ以上がよくわからない。
読了日:10月27日 著者:星野 智幸
ギリシャ語の時間 (韓国文学のオクリモノ)ギリシャ語の時間 (韓国文学のオクリモノ)感想
https://medium.com/p/1ec323d496af
読了日:10月27日 著者:ハン ガン
青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない (電撃文庫)青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない (電撃文庫)感想
https://medium.com/p/2fc1a937a8dc
読了日:10月28日 著者:鴨志田一
青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない (電撃文庫)青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない (電撃文庫)感想
https://medium.com/p/8c1083b0384c
読了日:10月28日 著者:鴨志田 一
人口減少と社会保障 - 孤立と縮小を乗り越える (中公新書)人口減少と社会保障 - 孤立と縮小を乗り越える (中公新書)
読了日:10月31日 著者:山崎 史郎

読書メーター
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見:Netflix

 この映画の話から外れるが、最近NHKでやっていたオリジナルドラマ『フェイクニュース』を見た。北川景子演じるネットメディアの記者が、あるバズりをきっかけとしてその裏を追っていくという話で、政治家の闇までたどりつくか……?という展開になっていた。要はこのドラマは「フェイクニュース」というネタを使いながらドラマを作っていくという展開を目指した。『スポットライト』は実話に基づくせいか、ドラマ性はほとんどない。(全くない、というわけではないが)

 その代わり、ただひたすら、調べ、取材し、編集チームで議論し、また調べて取材し……という報道に必要なルーティンを繰り返し描写する。ボストングローブが実際に告発したのは、教会の牧師による子どもへの性的虐待(それも膨大な数)と、それを隠蔽しようとした教団側という闇であるわけだが、もちろんいきなり本丸は叩けないから外から埋めていく。大人になった被害者であったり、何かを知っていそうな弁護士であったりと様々であるが、そういうわえで誰かが常にどこかでしゃべっている映画である。

 報道、とりわけ調査報道においては何が重要なのか。それはまずはコストである。時間も費用もかかる調査報道の場合、ある程度アテをつけながら、かつ効率よく取材を行う必要がある。だから、記者とデスク側はこのコストについて論争を常に交わしているし、後半は持ってきたネタをいつどのタイミングで記事に挙げるか、といった話題で喧々諤々と議論となる。ドラマというほどの大きな物語展開があるわけではないが、これはこれで、ディティールという意味での一つの見せどころと言えるだろう。

 取材対象者は先ほどあげたように幅広いが、もちろんどの対象者もがおしゃべりなわけではない。口をつむぐ対象者もいれば、何かをしっていそうなふりをしながらそれを隠す者もいる。取材とはそもそもそういうもの、なのかもしれないが、悪をあぶり出していくプロセスは非常に地道な行為の繰り返しである。
 
 地道な行為を支えるのが熱意であることも、さっき触れた編集部における喧々諤々の議論から垣間見える。クソ野郎どもがいたということはわかっているし、その数がボストンだけにとどまらず膨大な数にのぼることも分かってきた。しかし確実に一つ一つの裏を取っていくのは地道で困難だ。だったら裏の取れた情報だけでも公開すべきだ。いやいや、ある程度まとまった数を出さないとインパクトがないし、小出しにすれば隠蔽されてしまう。などなど。

 明確な答えはないだろうが、ボストングローブの人たちの取材機関は、その時がちょうど9.11の頃と被っていることもテレビの映像で明らかになるが、当時のアメリカは9.11で安全への神話を失い、ボストングローブのスクープによって宗教への信頼を失ったんだなと思うとアメリカ社会の失ったもの、傷を思う。

 いろいろなところで触れられているが、エンドロールまでの一連の「リスト」がお見事である。ボストンの地方紙が動かなければ、すべてが闇だったかもしれない。調査報道の極意というものが、あのリストの中によく表れていた。


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見:Netflix

 ネトフリでついに伊藤計劃劇場化の三作品が配信されはじめたので、見てみた。『ハーモニー』だけは以前TSUTAYAで見ていたのでそれは置いておいて、今回『虐殺器官』を経て『屍者の帝国』を見てみたが、本作が一番映画としての完成度は高い。尺の都合上、すべての作品が原作の重要な部分を削ったり、あるいはキャラクターの描写(背景となる生い立ちであったり人間関係であったりトラウマであったり)を控えめにしか書けない中、なんとか頑張ったのが『屍者の帝国』なのだと思う。

 元より本作が一番膨大な原作量を持つ以上、削っていくしかない。しかもロンドンから始まるがロシアや東京やらサンフランシスコやらと、19世紀末の世界を旅していく一行を書くのは容易ではないが、だからこそ非常にテンポよく進んでいく展開には好感が持てる。それは、たとえばロシアであれば真っ白な極寒の景色を、東京(もちろん明治維新からすぐ後の東京である)ならば江戸の町の風景を、両国国技館から始めてみる。屍者による<帝国>が完成されてしまったサンフランシスコにおいては地獄絵図が展開されるが、それも含めてワトソンやフライデー、そしてバーナビーとハダリーのパーティが旅をしているリアリティがよく表現されている。

 根本的にはフランケンシュタインの遺した手記と、彼の生み出したザ・ワンとのめぐりあわせというところかもしれないが、もっと本質的にはタイトルにもあげたように<帝国>を実現せんとする生者たちの欲望との闘いでもある。つまり、この世界において屍者は生者に使役される道具でしかない。しかし屍者もただ使役されるわけではない。そのことに対する不満を一番持っているのがザ・ワンでもある。SFではロボットを使役する人間に対してロボットが反乱を起こすという光景が珍しくないが、それに似たことを、同じ人間同士でやらせているというのは、リアルな歴史ではこれから本当の帝国主義が発展しようとする時代背景と相まって、なるほど面白いことを考えたものだと思う。(もちろんこれは伊藤と円城の功績だが)

 話を戻すと、さらに重要なのはフライデーとハダリーだろう。ワトソンはなぜフライデーに特別なこだわりを見せるのか。あるいは、あまりにも美しく常にドレス姿で颯爽と現れるハダリーは何者なのか、といった問いは、映画を見る中でずっと視聴者に突き付けられる。たとえば『虐殺器官』の映像化において、クラヴィスやジョン・ポールのキャラクターの本質を表現するための時間がなかったのとは違い、ワトソンとフライデーとの関係は可能な限り掘り下げている(そしてそれこそが物語のエンジンになっている)し、ハダリーの痛みもまたワトソンやフライデーの持っているものと重なるものだ。

 人は感傷的にならなければ生きていけないのだろう。だから感情のない屍者と、普通に生きている生者はあまりにも行動様式が異なる。ハダリーが終始表情を変えずに、やるべきことを淡々と成すのも、それ以外の方法を知らないから、あるいは知っていてもできないからだ。だからこそ、最後に彼女がほほ笑んだシーンはとても美しいと思うし、ハダリーの限界を認めながら彼女を承認するワトソンが優しいなと思った。

 <帝国>を欲望するところは、いつの時代の人間にもつきものだ。『ハーモニー』が目指した世界も一つの<帝国>には違いない。膨大な血を流すことによって<帝国>を築くのか(ある意味それはパックス・アメリカーナそのものかもしれない)あるいは、人が人らしく生きていける社会を築くのか。人の歴史はまだまだ続いていく。19世紀末を舞台にしたフィクションは、非常に現実味を帯びたフィクションだったなと再確認する。




屍者の帝国 (河出文庫)
伊藤計劃
河出書房新社
2014-11-21




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