芥川賞(公式)
前回はまあ悪くない予想をしたと勝手に思っているので今回もせっかくなので予想してみたい。
◎受賞作なし
〇宮内悠介「カブールの園」
▲山下澄人「しんせかい」
△加藤秀行「キャピタル」
加藤以外の候補4作は既読。前回同様受賞作はレビューを書こうと思ってます。加藤の「キャピタル」については掲載されている『文学界』12月号はamazonのマケプレで注文したので近日中には手に入る予定。
候補のうち山下澄人だけが4回目という常連っぷりだが次が加藤秀行の2回目、他3人は1回目の候補なので分かりやすい形で見ると山下と他4人といったところ。さらに社会学者の岸政彦「ビニール傘」と新潮新人賞からそのまま候補になった古川真人「縫わんばならん」はいずれも(文芸)デビュー作での候補ということになる。
また、宮内悠介も「半地下」に続いて『文学界』に発表した2作目である「カブールの園」での初候補なので、まだまだ純文学業界では新入りと見てもいいだろう。それを言えば加藤だってまだ3作目である。(以前候補になった「シェア」が2作目)
もちろん1回目や2回目の候補でかすめていくパターンがあっても全然おかしくないのだが近年では稀なほうで、又吉直樹の「花火」や黒田夏子の「abさんご」のようなインパクトを持っていないと初候補での戴冠は難しいだろう。
よって本命は受賞作なしにした。
芥川賞には長らく演劇畑の作家は相性が悪いというジンクスがあり(とはいえ戯曲だって候補のうちではあるのだが)前々回に本谷有希子がそのジンクスをようやくはねとばしたが、その次に山下が続けるかと言われるとやや微妙。
山下のこれまでの候補作(「ギっちょん」、「砂漠ダンス」、「コルバトントリ」)はいずれも読んでいるが、これらと比べて「しんせかい」が悪くないのはいままでのようにトリッキーな構成をとることはなく分かりやすく展開されているところだ。
候補作の中でも一番長い。長いが、演劇塾に参加したスミトの目線で書かれるリアルではあるがリアルさ以外に何を求めているかがはっきりしない構成が弱いなと感じた。ある意味、やや複雑でトリッキーな構成のほうが山下澄人の書きたいものは書けるのかもしれない。
対抗に推す宮内悠介は一番筆致がこなれており、純文学サイドからどう受け止められるかは分からないが「カブールの園」で追求されている人種や国境をめぐる巡礼は文学的な視点から評価されうるだろう。VRのようなガジェットや精神医療を要素に持ってくるあたりはおなじみだが、これらの点はあくまでも個別の要素であって、主人公レイが休暇を利用して自身のルーツを巡礼するのが主なねらいだ。
レイが訪れるのは戦時中の日系人収容所跡であるが、そこで引用されるレーガンのスピーチが印象的だ。この週末はアメリカでは歴史上最悪とも言われる権力移行がオバマ→トランプへと行われるわけだが、伝統的なアメリカ的思想とは真反対を向くトランプにもレーガンのスピーチは皮肉なものに映るだろう。
こうした現代性は、宮内がレイを通じて探究しようとする文学的な視点とともに評価されていい。あとは細かい要素が蛇足とされうる可能性と、全体的な弱さがやや落ち目と言えるか。
加藤秀行は読めていないと書いたが「シェア」と「サバイブ」を非常に面白く読んだので、期待こめつつの△。古川と岸は今回はさすがにきびしい。古川はその意匠に新しさをあまり感じないし、同じような手法なら前々回の滝口悠生のほうがやはりうまい。
岸は小説としては悪くないしややミステリー仕掛けの面白さもあるが、最近の芥川賞をとるにはやはり短すぎる。
以上、受賞作なしを本命としつつも宮内か加藤のどちらかが受賞するならとてもうれしいです。
前回はまあ悪くない予想をしたと勝手に思っているので今回もせっかくなので予想してみたい。
◎受賞作なし
〇宮内悠介「カブールの園」
▲山下澄人「しんせかい」
△加藤秀行「キャピタル」
加藤以外の候補4作は既読。前回同様受賞作はレビューを書こうと思ってます。加藤の「キャピタル」については掲載されている『文学界』12月号はamazonのマケプレで注文したので近日中には手に入る予定。
候補のうち山下澄人だけが4回目という常連っぷりだが次が加藤秀行の2回目、他3人は1回目の候補なので分かりやすい形で見ると山下と他4人といったところ。さらに社会学者の岸政彦「ビニール傘」と新潮新人賞からそのまま候補になった古川真人「縫わんばならん」はいずれも(文芸)デビュー作での候補ということになる。
また、宮内悠介も「半地下」に続いて『文学界』に発表した2作目である「カブールの園」での初候補なので、まだまだ純文学業界では新入りと見てもいいだろう。それを言えば加藤だってまだ3作目である。(以前候補になった「シェア」が2作目)
もちろん1回目や2回目の候補でかすめていくパターンがあっても全然おかしくないのだが近年では稀なほうで、又吉直樹の「花火」や黒田夏子の「abさんご」のようなインパクトを持っていないと初候補での戴冠は難しいだろう。
よって本命は受賞作なしにした。
芥川賞には長らく演劇畑の作家は相性が悪いというジンクスがあり(とはいえ戯曲だって候補のうちではあるのだが)前々回に本谷有希子がそのジンクスをようやくはねとばしたが、その次に山下が続けるかと言われるとやや微妙。
山下のこれまでの候補作(「ギっちょん」、「砂漠ダンス」、「コルバトントリ」)はいずれも読んでいるが、これらと比べて「しんせかい」が悪くないのはいままでのようにトリッキーな構成をとることはなく分かりやすく展開されているところだ。
候補作の中でも一番長い。長いが、演劇塾に参加したスミトの目線で書かれるリアルではあるがリアルさ以外に何を求めているかがはっきりしない構成が弱いなと感じた。ある意味、やや複雑でトリッキーな構成のほうが山下澄人の書きたいものは書けるのかもしれない。
対抗に推す宮内悠介は一番筆致がこなれており、純文学サイドからどう受け止められるかは分からないが「カブールの園」で追求されている人種や国境をめぐる巡礼は文学的な視点から評価されうるだろう。VRのようなガジェットや精神医療を要素に持ってくるあたりはおなじみだが、これらの点はあくまでも個別の要素であって、主人公レイが休暇を利用して自身のルーツを巡礼するのが主なねらいだ。
レイが訪れるのは戦時中の日系人収容所跡であるが、そこで引用されるレーガンのスピーチが印象的だ。この週末はアメリカでは歴史上最悪とも言われる権力移行がオバマ→トランプへと行われるわけだが、伝統的なアメリカ的思想とは真反対を向くトランプにもレーガンのスピーチは皮肉なものに映るだろう。
こうした現代性は、宮内がレイを通じて探究しようとする文学的な視点とともに評価されていい。あとは細かい要素が蛇足とされうる可能性と、全体的な弱さがやや落ち目と言えるか。
加藤秀行は読めていないと書いたが「シェア」と「サバイブ」を非常に面白く読んだので、期待こめつつの△。古川と岸は今回はさすがにきびしい。古川はその意匠に新しさをあまり感じないし、同じような手法なら前々回の滝口悠生のほうがやはりうまい。
岸は小説としては悪くないしややミステリー仕掛けの面白さもあるが、最近の芥川賞をとるにはやはり短すぎる。
以上、受賞作なしを本命としつつも宮内か加藤のどちらかが受賞するならとてもうれしいです。