2016年01月

2016年01月19日

新芥川賞作家の秀逸な第一歩 ――滝口悠生『寝相』(新潮社、2014年)



 滝口悠生が「死んでいない者」で第154回芥川賞を受賞したことを記念して、っていうと大げさだけど約2年前に書いたままupしていなかった彼のデビュー作『寝相』のレビューをそのままはりつけます。
 レビューでも言及しているように、実際にそう遠くないうちに芥川賞までたどりついたのは素晴らしいことだと思う。好きな作家の一人というだけでなく早稲田出身(二文中退なので、厳密には出身ではないが中退は一流の証を体言する一人になった)の作家でもあるし、今後の活躍も期待したい。

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 新潮新人賞受賞作の「楽器」を以前からずっと読みたいと思っていたので、個人的には待ちに待った単行本の刊行だった。これが初の単著となる滝口は80年代生まれとまだまだ若い部類に入ると思うが、老成しているというか達観しているというか、妙な落ち着きと、そして揺らぎがある文体が印象的だ。現代の純文学において、あえてわざわざ古いことをやろうとする意味はさほど大きくないし、その古さが新鮮だったとしても飽きられるのは早い。他方で新しさにこだわりすぎても二手三手が容易に続かない限り、詰みが待っている。滝口は滝口で、まだまだ作家としてのキャリアを歩み始めたばかりだ。彼はどこに向かっていくのだろうかと、最初の単著を改めて読み終えて思う。

 「楽器」に少し触れたので、順番としては最後に収められているが「楽器」の話から始めよう。「寝相」や「わたしの小春日和」に続く滝口の成熟した(ように見える文体)と、東京の西側(「楽器」では西武池袋線界隈)を舞台とした大人の群像を書いていることが特徴として挙げられる。主要な登場人物は何人か出てくるが、誰か特定の主人公を置かずに三人称の視点を積極的に切り替えながらそれぞれの視点や思考を深めていく書き方を滝口は試みている。これも他の二編に共通することだが、他の二編よりもさらに「楽器」のほうが誰が主役なのだろうかという意識は薄い。さらに言えば、タイトルが「楽器」である必然性もさほど強くあるわけではないように思う。楽器についてのエピソードも、いくつもあるエピソードのうちのいくつかに過ぎないからだ。

 では、滝口は「楽器」の中で何を表現しようとしたのか。なんとなく読んでいたらすでに話は始まっていて、気づいたら終わっているという体のストーリー性の希薄な(この点はある意味純粋に純文学的で、他の二編に比べてもやはり希薄)この短編は、だがしかし順番通り最初に「寝相」を読んだあとだと何か少し物足りないような気もする。歌や楽器をキーにして現在から過去へと導くという手法をとっているとも読めなくはないが、ではその手法で表現したかったものが何かははっきりと見えてこない。逆にその点を踏まえて擁護するならば、別に何かを明らかにしたくて小説を書いているわけではないと言えるだろう。味はある。しかし、味だけでなのではないか。食べる、働く、歩くなどといった日常生活の描写に力を入れて、一見なにげないようなことをも詳細に描写する筆力は魅力的ではある。ある、のだが。

 もう少し、もう少し何か突き抜けてくれればと思いながら再び「寝相」を読んで腑に落ちたことがあるとするならば、こちらのほうがきれいに筋を通っていて分かりやすいということだ。分かりやすさは別に純文学にとっての必要条件でもなんでもないけれど、小説を読むという段にあたっては筋があると認識できたほうが話に入り込みやすいのかもしれないとは思う。もっとも、「寝相」でも視点の転換は頻繁に起きるし、祖父竹春と娘なつめの話かと思いきや二人はすぐに後景に回り、母弥生や竹春の元妻(なつめにとっては祖母にあたる)柿江の印象がやたらに強く残る。

 というのは、「寝相」は祖父と孫娘の話に見せかけて、家族の話と見せかけて実は祖父竹春の一代記だった、というような二重の仕掛けがなされているからで、病院に定期的に通わなければならなくなった竹春自身は多くを語らないが、竹春の周辺や彼の過去を一つずつ記述することによって、何でもなかったかもしれない一人の老人の人生が鮮やかに浮かび上がってくるのだ。ラストの描写は滝口のような手法を用いる作家としてはちょっとあり体な気もするが、なつめへと橋渡しがなされていることも含めて(良くも悪くも)きれいにまとめている印象を受けた。

 「わたしの小春日和」については一つのアイデアを推し進めようとしたものも、「楽器」と同じようにとりとめのないエピソードを多数散りばめる展開になっていて、まとまりがあまりよろしくないし、読んだ印象もさほど強くはない。3.11後という時期を意識したような演出はあったが、もう少し本筋とつなげてもよかったのではないかという気はする。もっとも。本「筋」は「楽器」より鮮明だが、あまり魅力的な筋ではないので、どちらでもよかったのかもしれない。「寝相」や「楽器」と違うのは時々文体をあえて崩すようなリズムで文章が挿入されるところだが、ここもうーんという感じがした。しだいとエッセイや日記の類いに思えてきてしかたなかった。

 もう一度「楽器」の話に戻ろう。「楽器」における細部のこだわりが生んだものは何だっただろうか。先ほど書かなかったことで挙げるならば、なんでもないことが起きるただそれだけのことであっても小説として文章にする力が滝口にはあるということ。また、ばらばらに動いていた4人の視点や行動がいつのまにかある方向へ収斂しそうになっていくことだ。もっとも、「寝相」ほど感情に訴えるような収斂の仕方ではないし、先ほども触れたがよくも悪くも気づいたら終わっていた類いのものだ。

 しかし、新人ながら新人離れした文体は読者を飽きさせる風にはできていない。視点が常に入れ替わることと、ディテールにこだわりながらも冗長にはなりすぎていない(しかしながら「寝相」に比べるとまだ荒削りだ)のは魅力だ。以前『群像』に書いていた「かまち」という短編を読んだときも感じたが、オチがどうこうというよりは次に誰が出てきて何が起こるのか(あるいは起こらないのか)という楽しみが滝口の小説にはある。この、次に書かれるかもしれないことへの期待は、途中から筋がある程度見えてくる「寝相」よりも「楽器」に顕著だった。

 ごちゃごちゃと書いてきて長くなったしまとまりがあまりよくない。その上でさらに書くと、デビュー作の「楽器」は三編の中ではもっとも印象に残りづらいし欠点もいくつかあるが、しかし魅力もあるのではないかと最後にもう一度考察したかった、とだけ触れておく。 最初の単著で作家のすべてを判断しようとは毛頭も思わない。現に大きくスタイルを崩さずして内容に変化が表れていることも観察できる一冊だ。上手く成長すれば芥川賞も遠くない作家の一人だと思っているので、ありていな言葉だが今後に期待ということで長くなってしまった文章を締めくくる。 (2014/4/22)

滝口 悠生
文藝春秋
2016-02-06



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2016年01月02日

2015年のアルバム15枚

 明けましたが、2015年のベストアルバムを選びました。10枚にしようと思ったけど絞りきれなかったし2015年だしということで15枚にしてみた。勢いで20枚くらいでもよかったけど、まあそれはまたいずれ。
 去年、一昨年とやってきた企画なので過去のエントリーもはっておきます。
2014年のアルバム10枚+2曲
2013年のアルバム10枚

 それでは、今年の15枚いってみます。番号はふってあるけど順不同。ジャンルは思ったよりも偏った感。

1.坂本真綾『FOLLOW ME UP』
FOLLOW ME UP(初回限定盤)(DVD付)
坂本真綾
FlyingDog
2015-09-30


 以前全曲レビューをやったのでくわしくはそちらを。
 リリースしてから数ヵ月が経つがいまだにヘビロテしている。国際フォーラムでのカウントダウンライブ組にうらやましさを感じつつ、16日の高松公演を楽しみに。ってかまあやが高松に来るとはさすがに思わなかった。当日が楽しみ。

2.南條愛乃『東京 1/3650』
南條愛乃/ 東京 1/3650(初回限定盤CD+Blu-ray×3)
南條愛乃
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
2015-07-22


 グリザイアシリーズの楽曲になった「あなたの愛した世界」、「黄昏のスタアライト」、「きみを探しに」を筆頭に南條の-icec力強い声が響き渡るとても耳に優しいアルバム。
「スタアライト」はfSでコンビを組むsatが手掛けているためエレクトロ色全開のアッパーなナンバーだが、「きみを探しに」で歌い上げる切ない恋模様の様子など、幅広く自由に歌えるいまの南條を象徴している。
 タイアップ以外だとTr.2の「believe in myself」やTr.9「Recording.」のようなまるで南條自身のことを歌っているようなナンバーがいい。こういう曲はグループやユニットではなく、ソロで歌うからこそ意味を持つ。

3.牧野由依『タビノオト』
タビノオト(初回限定盤)(DVD付)
牧野由依
インペリアルレコード
2015-10-07


 待望と言って大げさにならない4thアルバム。歌手活動10周年、前作『ホログラィー』から4年かけてのアルバムなのでほんとうに待ってましたという感じ。
 Tr.1の「ワールドツアー」のノリにはちょっと驚かされつつも、Tr.3の「囁きは"Crescendo"」を聴くとやっぱこの人すごい・・・と思わせられる。音大に通っていたとはいえそれはあくまでピアノのためにだとは思うけれど、牧野由依のようにあまりにもナチュラルに歌える声優をいまのところ知らない。彼女の場合、ナチュラルさがそのままかわいいという声の質を持っていて、花澤香菜のようなかわいすぎるとしか言えない声とはまた別の「かわいい歌声」を持った希有な人だなということを再確認した。あと、ピアノとこんなにきれいに混ざる声っていうのもなかなかないんじゃないか。
 『ARIA』シリーズの主題歌を手がけていたころから天使のような歌声を持つ人だとは思っていたけれど10年経ったいまもなお、ならこれからも楽しみでしょうがない。音楽活動のほうでは紆余曲折のあった10年だったが、次の10年もしっかり見守っていこう。

4.戸松遥『Harukarisk*Land』
Harukarisk*Land(初回生産限定盤)
戸松 遥
ミュージックレイン
2015-03-18


 アルバムタイトルからも分かるように、自分の色をつめこんだかのような一色。戸松といえば高身長を生かした快活さであったり、とびっきりの明るさであるわけだけど、とにかく元気、元気すぎる一枚。その中だとタイアップになったTr.2「courage」のやや硬派な感じは逆に目立つ。逆にTr.8「PACHI PACHI PARTY」のほうはアルバムの中でも完全になじんでいる。
 前作『Sunny Side Story』ももちろんいいアルバムではあったんだけど、今作のほうがより楽しさが伝わってきてクオリティどうこうよりもそっちに好感を持てる。Tr.3「ラブ ローラー コースター」には「自分らしくあれ 下手にバランスとらないでいいのさ」という歌詞があるが、戸松自身がこのアルバムでその詞の中身を十分体現できていると思う。
 ライブ、行きたさがある。

5.花澤香菜『Blue Avenue』
Blue Avenue
花澤香菜
アニプレックス
2015-04-22


 もはや歌う声優というよりは一人のシンガーとしての活動が定着してしまったかのように思う3rdアルバム。
 シングルから収録されている「ほほえみモード」、「こきゅうとす」、「君がいなくちゃだめなんだ」の三曲がやはり完成度の高さからすると目立つ。いろんな作り手が花澤の声を試し、あるいは遊んだりして(「こきゅうとす」を手がけたやくしまるえつこからはそんな匂いがぷんぷんする)きた結果がこれ、という感じ。
 全体としてはいままでの流れ通り渋谷系リバイバルという色はあるものの、Tr.1の「I LOVE NEW DAY」なんかを聴いているとありふれたいまどきのシティポップを花澤なりに歌っている、というようなイメージに近い。ありふれているというのは悪い意味ではなくて、もう歌手活動一年目のような新鮮さはいい意味でないのだから、過度なキャッチーさはいらない。
 それよりも自由で、ちょっとふわふわとした、花澤香菜の持っている声が素直に使われているところに大きな満足を覚える。

6.Faint*Star『PL4E』
PL4E [CD+DVD盤]
Faint★Star
Faint Star Tokyo
2015-07-07


 一年ほどしか追いかけられなかったとはいえトマパイのファンだった人間としてはあのサウンドが帰ってくるかもしれないと期待した一枚。先行したシングル2枚から8曲を収録しているので、アルバムのみの新曲はさほど多いわけではないが、一枚通して聴くってのはやはり何とも言えない快感なのだと感じる。
 たとえばTr.5「スライ」、Tr.6「フィルム! フィルム! フィルム!」からのTr.7「今夜はRIDE ON TIME」までの一連の流れを味わえる感覚。力強さとかわいらしさを兼ね備えているのは当然として、洗練されたメロディが彼女たちを鮮やかに彩る。Tr.2「Boyfriend A.S.A.P.」のようなキャッチーなメロはむしろイレギュラーなんじゃないかと錯覚してしまうほど、HINAとYURIAが二人して歌っていることをもっとちゃんとみつめてあげないといけない。(それがなによりこのユニットの真骨頂であるはずだ)
 「今夜はRIDE ON TIME」に関しては明らかに歌詞が狙いすぎなんだけど(どこかのインタビューでHINAが「大丈夫なの?」って驚いてた気がする)まあけどこの二人ならしゃーないよねってなる。たぶん。
 ひところのももクロやベビメタなんかもそうだけど、いまのアイドル業界がポストかわいいをほしがっているのだとするならばこのユニットはもっと上まで突き進んでほしい。

7.アップアップガールズ(仮)『サードアルバム(仮)』
サードアルバム (仮)(初回限定盤)
アップアップガールズ(仮)
T-Palette Records
2015-03-17


 去年出た『セカンドアルバム(仮)』の感想に「総じて最高だった」って書いてたけどこのアルバムもすさまじかった。
 47都道府県ツアーの公演に参加したからかもしれないが、こんなにすごかったっけって思うほどのダンスダンスダンス。そしてもちろん声を上げて歌いまくるし、観客を煽りまくる。「虹色モザイク」をライブで聞いたときの多幸感は捨てがたいけど、リード曲の「Beautiful Dreamer」の力強さも彼女たちの強い魅力だし、かわいさとかっこよさと力強さをぐるぐるにミックスして自分たちだけのアイドル像を作り上げようとしているのはほんとうに素晴らしいと思う。
 願わくばそのハードなスタイルに身体が追い付かないことのないようにと思ってしまうが、それは少しお節介かもしれない。

8.Negicco『Rice&Snow』
Rice&Snow
Negicco
T-Palette Records
2015-01-20


 昨年リリースした「光のシュプール」というシングルに虜になってしまい、そんなに深い思い入れやリスナー体験があったわけではないけどアルバムを購入してしまった。そしてまったく後悔しなかったのでたいへん満足している。
 若いと言っては語弊があるかもしれないがキャリア10年以上を数えるだけあって、若さやかわいらしさを売りにするアイドルたちとは違って多様なトラックメーカーの提供した楽曲にどうやって乗るか、その質が重要なのだと思う。
 たとえば「トリプル! WONDERLAND」のような明るくキャッチーなアンセムソングと歌いやすいメロディと音程とは言えない「BLUE, GREEN, RED AND GONE」のいずれもを質を落とさずに歌うのは容易ではない。
 大人っぽいアイドルとは単に大人のセクシーさのようなものを売りにするんではなくって、ちゃんとキャリアを重ねてきたことを示せばいい。Negiccoを聴いて満足かつ安心できるポイントがあるとすればそれだろう。でなければここまでファンだけでなく楽曲提供者から愛されるユニットにはならない。

9.Tokyo 7th Sisters『H-A-J-I-M-A-L-B-U-M-!!』
H-A-J-I-M-A-L-B-U-M-!!
Tokyo 7th シスターズ
DONUTS
2015-05-20


 アニソン、声優業界では今年一番の衝撃。ナナシスはこれだけアイドルものが続いたあとだとだいぶ後発の企画になるわけだけど、2010年代以降のトレンドを象徴するトラックメーカーを集めたこのアルバムはまさしく未来を生きているよう。
 ゲームは全然やっていないけどこの作曲陣なら信頼できると思いアルバムを購入し、Tr.1の「H-A-J-I-M-A-R-I-U-T-A-!!」とTr.2の「Cocoro Magical」を聞くだけであっというまに虜になってしまった。文字通り始まり、スタートラインにたった心境を歌う歌に「どんなに遠くたって春舞う綿毛のように」という目に浮かぶようなきれいな歌詞がつらなっていく。十分に期待感を高めたあとの「Cocoro Magical」のキュートな歌詞にめちゃくちゃときめく。
 最初のうちはこの二曲をひたすらリピートしてたけど全体的にかなりサウンドの幅があって、時には等身大の女の子であったり背伸びをしたい女の子だったりといったポップな歌詞を若手の声優陣が歌にこめている。
 全体的には元気で明るく、かわいい曲が目立つなかでWITCH NUMBER 4というユニットの歌う「SAKURA」はひときわ目立つ。この曲だけがとびっきりに切なくて、メロディアス。
 あとまあ、手掛けている人たちの名前や経歴を見れば瞭然だが、どの曲もとにかく踊れる。なので1stライブ行った勢がうらやましくてたまらなかった。
 本当に、ナナシスはいいぞ。

10.STAR☆ANIS『SHINING STAR*』


 『アイカツ!』二期の集大成となるアルバム。今回も二枚組。一期より二期が、特にドリアカ勢が好きな勢としては「ハッピィクレッシェンド」を幾度となく再生したか分からない。
 それと、映画を見たあとに「SHINING LINE」を聴くとアイカツ!という作品がつくってきた物語の魅力をこれほどきれいに鮮やかに凝縮できるんだと感動してしまう、いまだに。
 アニメのシーンがまざまざとよみがえる、至福の二枚組。

11.AIKATSU☆STARS『JOYFUL DANCE』
Joyful Dance
AIKATSU☆STARS!
ランティス
2015-06-24


 こっちは大空あかり世代の三期を彩る最初のアルバム。歌い手も交代して、まさに新時代の始まりという感じ。
 アルバムのタイトルと絡めるなら新世代の中でもニューウェーブである黒沢凛のソロ曲、Tr.3「MY SHOW TIME!」だろう。たとえばあまふわなでしこのTr.6「恋するみたいなキャラメリゼ」と比べると曲も歌詞も驚くほど違うけれど、いずれもキャラクターの個性に寄り添う形で生まれている曲で、魅力的。キャラソンというよりは持ち歌として聴くほうがいい。
 
12.米津玄師『Bremen』
Bremen (初回限定盤)(CD+DVD) (映像盤)
米津玄師
Universal Music =music=
2015-10-07


 ハチとしてボカロ界隈をとどろかせていたころの活動はある程度追っかけていて、同人時代のアルバムもしっかり持っているわけだけど、メジャーに行ってからはさほど追いかけてなかった。 
 ただあるときラジオを流していたら彼がゲストとして表れてトークをしておりアルバムのリードトラックである「アンビリーバーズ」を聞いた瞬間なんだこれは、と思ってしまった。生身の彼はボーマス会場で何度か見たことがあったし(もうずいぶん前のことではあるが)彼が自分の言葉で歌っているとして違和感が全然なくて、渇いている声で情熱的に歌い上げる様にバンプの藤原を重ねなくもない。
 ボカロPをしているころから変わらないことがあるとすれば(というといくらか失礼かもしれないが)一つ一つの曲にはっきりとした物語を持ったタイプのミュージシャンであるということ。もうひとつ、私性を歌うシンガーソングライターというよりは、ソロではあるがバンド志向の音楽を作っていること。適切な説明ではないかもしれないが、歌詞だけじゃなくてサウンド面でも彼の音楽はギタ一本ではきっと物足りなさを感じる。
 「アンビリーバーズ」を聞いて思ったその感覚は、Tr.4の「Flowerwall」でもう一度強化される。彼は僕「たち」や僕と「君」といった形での複数形の物語を歌い上げるし、それがいまも昔もしっくりくる。
 
13.Chouchou『ALEXANDRITE』
ALEXANDRITE (BICOLOR EDITION)
Chouchou
Ulula Records
2015-04-25


 インスト曲も含んではいるがボーカルメインの楽曲を中心に構成されたアルバムとしてはかなり久しぶり、かつ2014年の『piano01 oto』に続くフィジカル盤のリリースとなった。クオリティの高い美麗なアートワークはブックレットの作り込みにも及んでいて、素晴らしさしかない。
 Tr.1の「fjord」でjulietの声がほとんどまったく変わってないことに安心するし(一定のキャリアはあるはずだがいろいろと謎の多い人だ)julietの可憐な声を支えるピアノサウンドの秀逸さも相まって期待感が高まる。
 なんと言っても言及すべきはTr.12の「Innocence」だろう。今回収録された新曲で、かつMVも作られている楽曲だが、Chouchouにしてはキャッチーで耳に残るサウンドで、わりかし王道寄りの楽曲でもある。
 ただ、7分25秒の長さの中にこめられているのは王道なんてものではなくって、最後に持ってくるしかない物語性のこめられた一曲になっている。ハッピーエンドとバッドエンドの中間というか、何かの終わりにゆるやかに向かっていくような心情が(MVと合わせて見るとなおさらに)とても美しい。


14.仮谷せいら『Nayameru Gendai Girl』
Nayameru Gendai Girl
仮谷せいら
PUMP
2015-12-16

 
 12月にリリースされた2ndEP。1stよりもより私性がポップに表れた表題曲はとても楽しい。1stのころはまだややぎこちなかった歌い方ものびのびと明るく、どこか吹っ切れたように歌っているところはとても魅力。
 Tr.5の「夜が終わるまで」はいままであまりなかったようなテイストの曲で、この曲があることで仮谷せいらの表現の幅を見ることができた。ただかわいく明るく歌えるだけの若い女性シンガーならたぶんたくさんいるだろうけど、自分で詞も曲も作り、あえて背伸びをせずにしっとりと自分たちのことを歌い上げる様には何とも言えない魅力がある。一種のノスタルジーかもしれない。

15.keeno『before light』
before light
keeno
ワーナーミュージック・ジャパン
2015-09-16


 タイトルチューンの「before light」と先行してニコニコで公開されたTr.1「morning haze」だけでもおなかいっぱいなのに、持ち味のkeenoサウンドがたくさん聴けて満足しかない。
 同人時代に出した「at dusk」というミニアルバムを聴いている身からすると1stアルバムはベストアルバム的な印象があったが、2ndの今作は一つのアルバムを作りにきたんだというメッセージがあちらこちらにあって、聴いているだけでとても楽しい。
 早朝のもやもやした感情から始まる「morning haze」から始まり、Tr.2「decide」、Tr.3「yours」を経由する流れが白眉。「before light」までの流れにはいくらか浮き沈みがあるものの、最初の3曲でkeenoの試みが十分理解できるし、最後まで安心してディープなサウンドにどっぷり浸ることができる。耳が幸せとはこういうことを指すのだろう。

 以上、今年は全部で15枚でした! まだ挙げたいけどもうつかれたのでこのへんで!

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