Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。

2015年12月

 ねりまさんがブログでまとめていたのを見てさすがだと感動してしまい、数は少ないがちゃんと整理しておくのは大事かなと思ったのでやってみる。
 記録としては今年からFilmarksを使いはじめた。以前はvideometerだったがこれは読書メーター同様にamazonからデータを引っ張ってくるので、公開されたばかりの映画の記録にはあまり向いていない。そもそもビデオの記録なので映画以外も多くてごちゃごちゃしてるし。
 Filmarksは映画のデータベースとしても使えるし、オサレなUIも悪くない。あんまり知り合いで使ってる人がいないのでフォローフォロワーの数は大したことないので、みんなもっと登録しようぜ、的なレコメンドをこめつつ。

 以下、今年のログ。ブログでレビューしたものにはリンクを貼った。
 アニメ映画のなかからだと『百日紅』と『アイカツ! ミュージックアワード』は同人誌『Fani通2015上半期』のなかで短いコメントを書いた。明日まで開催のコミックマーケット89で頒布されたあと、おそらくCOMIC ZINで販売が開始されるはず。


映画館

・劇場版 PSYCO-PASS(2015年、日本)
・幕が上がる(2015年、日本)
ニンフォマニアック(2013年、五ヶ国合作)
・幸せのありか(2013年、ポーランド)
・百日紅(2015年、日本)
海街diary(2015年、日本)
・ザ・トライブ(2014年、ウクライナ)
・きっと、星のせいじゃない(2014年、アメリカ)
・Mommy(2014年、カナダ)
セッション(2014年、アメリカ)
・バケモノの子(2015年、日本)
・アイカツ! ミュージックアワード(2015年、日本)
・心が叫びたがってるんだ(2015年、日本)
追憶と、踊りながら(2014年、イギリス)

 というわけで、常守朱がかっこよすぎる劇場版サイコパスから始まり、香川レインボー映画祭で見たゲイ映画で終わる一年でした。14本。
 二つだけ。まず「幸せのありか」はいましている仕事とも絡められるかなと思って見てみたが、素朴にドラマとして見応えがあるということと、主役の演技に最後まで圧倒された映画だった。一つのヒューマンドラマとして見るべきだろう。家の中での所在のなさとつかのまの幸福、障害者として施設に入ってからの生きづらさと生き甲斐、そしてその後。どういう形であれ、人生は続いていく。
 「きっと、星のせいじゃない」はいわば難病ものだが、「(500)日のサマー」の脚本を書いたコンビが脚本を書いているだけあって、会話のノリが非常に巧みにできている。「サマー」よりも年齢層の低い主役たちの、文字通りの青春ものの王道を突き進む展開ともマッチしている。結末はどんでん返しととらえるべきか、できすぎた終わり方ととらえるべきかは人によるだろうが、生き残ったものの強さが発揮されるワンシーンはとても痛快で気持ちいい。

自宅
・幕が上がる その前に(2015年、日本)
・地獄の黙示録(1979年、アメリカ)
・チョコレートドーナツ(2012年、アメリカ)
・君がいなくちゃだめなんだ(2015年、日本)
・劇場版タイムスクープハンター 安土城最後の一日(2013年、日本)
・ウォールフラワー(2012年、アメリカ)
・舟を編む(2013年、日本)

 6本と思ったより少ないが、Amazon Fire Stickで見てみたい映画をガンガンウォッチリストに入れたので来年はもう少し増えそう。
 いま挙げたなかだと『ウォールフラワー』と『舟を編む』はfire stickのプライムビデオで見た。

 もう一つ、せっかくなので「高松のソレイユという映画館でやっていたのに見逃したリスト」も。ソレイユは高校時代に時かけを見たり『潜水服は蝶の夢を見る』を見たりととてもお世話になった&そしていまもなっている高松のミニシアター。
 年が明けたら1月に「ヒトラー暗殺、13分の誤算」が、3月に「恋人たち」が上映開始されるらしいのでこっちは絶対みたい。

・パレードへようこそ
・サンドラの週末
・野火
・わたしに会うまでの1600キロ
・ピッチ・パーフェクト
・ピッチ・パーフェクト2
・ふたつの名前を持つ少年

 2016年もいろいろ見ていきたいです。最初に見るのは『クリード』の予定。
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●小説(国内)
1.米澤穂信『王とサーカス』
2.滝口悠生『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』
3.柴崎友香『パノララ』
次点:渡航『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』11巻(ガガガ文庫)

 2014年に『満願』で各種ミステリベストを制した米澤が『さよなら妖精』の10年後を書いた小説で再びランキングを制するという結果に。『満願』はまだ読んでないのでなんとも言えないけれど、『王とサーカス』はある意味では『さよなら妖精』の正統な続編だし、しかしまったく別物の小説に仕上げているというぜいたくさが味わえる。
 レビューで長く書いたので短くまとめるが、『さよなら妖精』が青春の屈折だとするならば『王とサーカス』はプロフェッショナルとしての屈折であろうし、守屋がマーヤに接近しつつおれたところと、太刀洗がネパールで出会う人々に対するアプローチの困難さは類似するものが多い。しかしほとんどなにもできなかった守屋と異なり、10年後の太刀洗には様々な武器がある。そこがプロフェッショナルの挫折と格闘を書いたこの小説の大きな醍醐味となっているし、ミステリーとしても非常に面白く、読者を引き込ませてくれる。舞台設定にはかなり難儀しただろうが、日本とは違う異国であることを基盤とした物語に大いに魅了された。
 滝口は今年三島賞と芥川賞にノミネートされ、年明けの芥川賞にも「死んでいない者」がノミネートされるなど勢いにのっている。ジミヘンとロードノベルと3.11後の東北といったやや詰め込みがちなこの中編小説にも、滝口の持ち味である時間と空間のトリックが自在に発揮されていて読むのが楽しい。同じく時間を操作した小説である『パノララ』を書き上げた柴崎にも、新しい魅力を存分に感じることができた。
 次点はこちらもこのラノ三連覇という記録を打ち立てた俺ガイルをセレクト。みんなの関係性がちょっとずつ変わっていく。学年的にまだ高校生活は続いていくわけだが、別れの日は近いかもしれない。雪解けの春はすぐそこにある、のか。

王とサーカス
米澤 穂信
東京創元社
2015-07-29




パノララ
柴崎 友香
講談社
2015-01-15




●小説(海外)
1.ミッチェル『風と共に去りぬ』(新潮文庫、全5巻)
2.ボラーニョ『アメリカ大陸のナチ文学』
3.ラモーナ・オースベル『生まれるためのガイドブック』
次点:ケン・リュウ『紙の動物園』

 ミッチェルの有名作を鴻巣さんが新訳で、ということで読んでみたが思った以上に楽しく読めた。細かいところでどこが現代的な訳か、というところまでは意識しなかったし、戦乱に巻き込まれるなかでの生活という時代特有の要素は大きいわけだけど、めげずに自立していくかつてはおてんばだった少女と、様々な誘惑をちらつかせるレット・バトラーという対比は作劇としても分かりやすくて魅力的。
 ボラーニョは白水社から訳出が続いていて読むのが追い付かないけど、架空の文学者辞典を一個の物語に仕立てる手腕は驚くし、そして面白い。あの超大作『2666』にもつながる人物があるとのことだが、まだあの長すぎる小説を再読する勇気はまだない。ほんとうにぽっかりと時間ができたときにまたむさぼるように楽しみたい。
 オースベルのこの本も白水社から出ているので海外小説は白水社ばかり読んでいたかもしない。あと新潮社。オースベル自身はまだ若い女性の作家だが、生まれるまでと生まれてから死ぬまでの人生のライフステージを細かく切り取って一つのオムニバス小説として仕上げたこの本は本国でもなかなかに評判らしい。いくつかの英語の記事を読んでみたが、一つは若い女性らしいビビッドさ(妊娠や出産をめぐる視点など)が小説にいかされてるのは間違いないということ。それだけでは単に女性らしい、という以外の要素にもふんだんに想像力を働かせて物語を書く力がある、つまり普遍的な小説かとしての能力を有しているからこそ評価されているのだろうと思う。訳されているのはまだ本書だけのようだが、新訳を楽しみにする海外作家がまた一人増えたのはとても嬉しい。
 ケン・リュウは初めて読んだが、個人的にSFの短編ですぐれたものを書ける書き手は高く評価したい。SFというジャンルはアイデアをつめこめば長くなってしまいがちなので、シンプルに短くまとめられる才能は貴重だ。本の内容については、表題作と「もののあはれ」が素晴らしかった。

風と共に去りぬ 第1巻 (新潮文庫)
マーガレット ミッチェル
新潮社
2015-03-28








●評論、学術、ノンフィクション
1.渡辺直己『小説技術論』
2.筒井淳也『仕事と家族』
3.マルティ・パラルナウ『ペップ・グアルディオラ』
次点:魚川祐司『だから仏教は面白い!』

 なおみーの本は保坂和志以降の現代小説の一トレンドをおさえた「移人称小説論」が読めるのでオススメ。
 筒井淳也はシノドスなどで文章を読んだことはあったがまとまった本を読んだのはこれが初めて。最近良作が続く中公新書ならではの堅実さとクオリティの高さ(もはや新書ではない感じ)を体現した一冊。仕事と家族がいかに両立されえないかを様々なパターンを提示して分析した上で各国の政策や取り組みを見ながら未来図を考えるという意義のある一冊。突破口はさほど大きくないが、それでもなにかをしなければ仕事と家族の関係はどちらもが疲弊して終わるだけだ。
 パラルナウのペップ本は密着したからこそ書ける充実の一冊で、訳も読みやすく本の価格を考えると十分元をとれた一冊。ペップがバイエルンを率いるのは今季で一区切りかもしれないが、だからこそいまのうちに読むべき価値のある本。
 ニー仏さんは単著を二冊出すという年だったが、配信を書籍化したこの本がとても読みやすく分かりやすく、そして面白いというなかなか完璧な本だった。『ゼロポイント』のほうはまだ積んでるので読まねば。

小説技術論
渡部 直己
河出書房新社
2015-06-23








●マンガ
1.アキリ『ストレッチ』
2.東村アキコ『かくかくしかじか』
3.冬目景『マホロミ』
次点:武者サブ『冴えない彼女の育てかた 恋するメトロノーム』、志村貴子『淡島百景』

 『ストレッチ』に泣き、『かくかくしかじか』に泣き、『マホロミ』が4巻というコンパクトなサイズで美しく完結したことに感動した一年だった。
 『ストレッチ』は非常に実用的で、電子書籍で落としたページをめくりながらベッドの上で身体を動かしまくりました。東京のどこかにありそうな日常を書きながらも実はポスト3.11を生きる二人でもあるということが物語の端々に挿入される。そうした重要な過去が現在に与える影響は実はさほど大きくないけれど、時おり矢のように突き刺さってくる。そのときに一人なら耐えられないかもしれない、でも二人なら、という希望的な日常が、様々なゆるふわなエピソードを心理的に補強してくれるメタメッセージになっている。最後の別れの瞬間までこうした構造は大きく変わらないし、ミステリーじゃないからいくつかの謎が解かれることもない。ただ、日常は変化とともにあって、変化する日々をこれからも生きていくしかない。でもそうした変化も、この二人ならきっと大丈夫なんじゃないか。別れのシーンにはいくらかの悲しさがあるが、不思議な安心感がある。その感情が、とてもいとおしい。
 『かくかくしかじか』については描くことを書くことに置き換えたら非常にズキズキくるストーリーで、自分はなぜ書こうとしているのかであるとか、書くことを続けられるのかとかをいやでも考えてしまった。マンガのようにドラマチックなエピソードがさほどあるわけではないけど、東村アキコの出身大学の卒展を以前金沢に行ったときに見たことを思い出したし、彼女が宮崎出身で地元宮崎の風景がマンガの中に描かれているのを見ると、宮崎出身の重要な友人を思い出さずにはいられなくて、いくらかセンチメンタルにもなったりした。
 冬目景は結果的に『マホロミ』と『イエスタデイズをうたって』をほぼ同時に完結させることに成功した。しなこ先生派としてはやや納得がいかないまでも、ある意味物語のスタート地点に戻ったというか、同じところを違う視点で眺めるような、きれいな幕切れだったのかもしれない。『マホロミ』はもう少し続けることもできただろうけど、これはこれで建築の歴史をめぐる青春模様としてのコンセプトが一貫していてよかった。人と人の間にあるものを書くのが基本的にこの作家はうまいわけだけど、そこに時間や歴史といった次元が加わると物語にぐっと奥行きが広がっていくところがとても好きだった。
 次点の恋メトはまあ詩羽先輩好きとしては極上のスピンオフなので。志村貴子は例年に見ないほど精力的に本を出した(画集も出している)一年だったが、どこかの学校の寮生活を連作形式で書いた『淡島百景』が『青い花』のような学校と少女たちの関係性や生きざまをめぐる物語をアップデートした感じでとても好み。









淡島百景 1
志村貴子
太田出版
2015-06-19


●アニメ
1.SHIROBAKO
2.響け!ユーフォニアム
3.グリザイアの楽園
次点:THE IDOLM@STER シンデレラガールズ

 アニメの個別評価については冬コミ新刊の『Fani通 2015上半期』で詳しく書いたのでできればぜひそちらを、と思いつつ、そのなかで触れられなかった『SHIROBAKO』について少しだけ。
 このアニメを一言でまとめるのは難しいけれど、P.A.WORKSがポスト青春期の物語として提示したい一つのイメージが宮森あおいとその仲間たちに投影されていたのだろうと思う。お仕事ものとしては『花咲くいろは』に次ぐ第二弾という触れ込みだが、花いろは高校生たちの青春群像劇という要素が途中まではかなり強かった。(最終的には女三代記として朝ドラ的な展開に回帰していく)
 その点、『SHIROBAKO』は学生ではないキャラクターたちのお仕事奮闘記であり、地方からの上京物語でもあるし、高校から社会人へといった形で引き継がれる関係性をベースにしたいままでのP.A.WORKSにはなかったような青春ものでもある。
 で、社会人のお話を書きながら同時に青春ものとしても仕立てるにはドラマが欠かせないわけだけど、そのドラマを書くための舞台がアニメ制作業界だったのは制作陣がもっとも知りうることのできる環境という点ではリアルな物語に仕立てあげやすい。
 結果的にはリアルとフィクションが混在したようなアニメになっているわけだけど、それはアニメという手段(実写ではないということ)を選んだ強みをいかした結果でもあるはず。そして至るところにアニメに対する情熱や愛が満ちあふれている。そこがなにより『SHIROBAKO』の強みになっただろうと思う。
  
【Amazon.co.jp限定】SHIROBAKO第1巻~第4巻セットBlu-ray(オリジナル描き下ろし収納BOX付)
木村珠莉
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
2015-12-21


響け!ユーフォニアム 1 [Blu-ray]
黒沢ともよ
ポニーキャニオン
2015-06-17


グリザイアの楽園 第1巻 (渡辺明夫描き下ろし収納BOX付き初回限定版) [Blu-ray]
櫻井孝宏
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
2015-08-26




●映画
1.Mommy
2.心が叫びたがってるんだ
3.海街Diary
次点:セッション

 キャラクターの躍動と、筋書きの読めなさ。『わたしはロランス』とは違う意味で、でもにたようなことを『Mommy』を見て感じた。うまくまとめることができなかったのでレビューは書いてないけど、ちゃんと映画館で目撃してよかった、と思えた映画には仕上がっている。
 ここさけは期待値以上に楽しめたし、海街も原作の質感を損なわない形で一本の映画として魅力的な作品になっていた。ただでさえ綾瀬はるかや長澤まさみが同じ屋根の下で、という画としての面白さがあるわけだけど、それ以上に彼女たちがしっかりキャラクターになっていた、そのことがとても楽しく、そして味わい深く見ることができた大きな要因だと思う。

Mommy/マミー 完全数量限定豪華版 [Blu-ray]
アンヌ・ドルヴァル
ポニーキャニオン
2015-12-02




海街diary Blu-rayスペシャル・エディション
綾瀬はるか
ポニーキャニオン
2015-12-16




●展覧会
1.風景画の誕生展@Bunkamuraミュージアム
2.マグリット展@京都市美術館
3.春画展@永青文庫
次点:チューリッヒ美術館展@神戸市博物館

 展示されているものだけの素晴らしさを語るならマグリット展や春画展のような大規模かつ貴重な展覧会を挙げるべきだろうけど、風景画の誕生展が面白かったのは絵画を一つ一つ見ながら歴史に裏付けされた明確なストーリーを味わえるところだ。教養主義的でもあるなあとは思ったものの、最近美術史に関する本をいくつか読んだタイミングとしてはもっとも面白く見ることのできた展示がこれだった。


 以上、こんな感じ。小説は今年もかなり読んだが新しいものよりも古いものを多く読んだ気がする。その上で海外小説の割合を意識的に増やしていったので、来年もうまいことバランス取りながら読んでいきたい。英米だけじゃなくてドイツ、フランス、ロシア、ラテアメあたりも。
 音楽だけは去年と一昨年同様、2015年のアルバム10枚的な感じで別記事にしてまとめようかと思っているので、次回。
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 ランニングブームという現象は、たとえば宮間あやが言うところの「ブーム」から「文化」にすでになっているのではないか。
 ということをあえて考えたわけではないけど、現状ではいたるところで市民マラソンが行われているし、関西や東京圏の大都市の大会になると応募倍率もなかなかに高い。東京マラソンに○年連続で落ち続けている、みたいな話はネットではいくらでも耳にする。
 自分にとってのランニングは小学生のころから毎年のように上位に入り込んでいたマラソン大会が原点にある。そのあと中学に入って入部した陸上部では長距離ではなく短距離といくつかのフィールド種目(幅跳びや高跳びを経験したあと最終的にはなぜか砲丸投げに落ち着いた)を経験したので、長距離的な意味でのランニングからは少し遠ざかってしまった。
 なので基本的には趣味的なランニングを高校や大学時代にはよく行っていて、山手線の内側に住んでいた大学院時代には池袋や新宿方面の繁華街に走って行くのを楽しみにしていた。
 高松に暮らしているいまのランニングの楽しみとしては、間違いなく海に行くことだろう。時間を問わず、高松港の近くにはランナーがたくさんいるし、港周辺は年に一度行われるトライアスロン会場にもなっている。平坦で景観がよく、そして大都市ほど密集していない。大きなアップダウンがなく、自然にほど近い地方都市というのはランナーにとってはやさしい街なのだと思う。(しかし夜走るときには車に気を付けないと普通に危ない)

 そういうなかでランニングというよりは走ることそのもの、あるいは運動することについての知識や関心をもっと深めようといくつかの本を最近読んだ。
 最初のきっかけはジョン・レイティとエリック・ヘイガーマンによる『脳を鍛えるには運動しかない!』だった。原題はもっとシンプルだが、このタイトルは本の内容を分かりやすくコンパクトにようやくしている。つまり、運動(本のなかではとりわけ有酸素運動が推奨される)が脳に与えるインパクトや効能について、様々な視点から書かれている。



 原著はアメリカで2008年に出ており、日本では2009年に訳された本なので少し前の本ではある。ただ、2000年代に入ってからの医学論文に関するレビューも多々記述されていて、科学的に運動と脳の関係を書いた本として読むことができる。本書は専門書ではなくて一般書なので、専門的になりすぎずに読みやすいという点で、バランスもとれている。
 たとえば第一章と二章では運動が勉強や学習にもたらす効果について書かれている。第一章でのアメリカの学校の取り組みの例は非常に面白い。それは、体育の授業のやり方を変えたことで成績が向上したという内容で、体育をスポーツの得意な誰かのためではなく、授業に参加するみんなが楽しめて、身体を動かすことができる方法に変えたということだ。
 その他うつや依存症、あるいはADHDといった脳内物質と関連のある疾患や症状に対しても運動が効果的であることを説明している。このあたりは最近NHKスペシャルかなにかでにたような番組を見たことがあったのでふむふむ、という程度だったが、第八章で女性の脳に及ぼす影響について書いた部分は非常に興味をもって読んだ。
 女性に特有な生理、つまり月経とその負の影響(月経前症候群:PMS)については、男性には完全には想像しづらいが女性には日常的な現象だろうと思う。生理前だからイライラする、だるい、頭痛が、という話はよく耳にするし、周期的に訪れる不可避な現象という辛さについてはやはり想像を絶する。
 このPMSにも運動が効果的だと書かれている。それは単に気分転換という意味ではなく、ホルモンへの影響が科学的にも明らかになっているという説明だ。ホルモンの変動に関しては同様に、産後うつや更年期障害といった女性特有の症状にも見られることであり、ここにもやはり運動が適する。
 そして女性特有の現象として挙げられるのが、妊娠だ。妊娠中の運動はリスクではないのか、という前置きを置きながら、2002年のアメリカ婦人科学会の報告を引きながら運動の有用性を提言している。もちろんやりすぎはよくないし、身体を痛める。具体的にどの程度の、という点が書かれていることや、妊娠中におけるストレスや不安を軽減する精神的な作用についても触れられている。さらに、妊娠中に運動をしたグループとそうでないグループとでは産後の子供の身体能力にも差が見られる、というポイントはなかなか面白い。

 というように、運動の具体的な効用とその方法について膨大な例が挙げられており、読むだけで身体を動かしたくなる一冊、というところがすばらしい。その上に読みやすい。
 第十章で書かれている言葉に、本書の主張の根幹が書かれているので引用しよう。
 わたしが強調したかったことーー運動は脳の機能を最善にする唯一にして最強の手段だということーーは、何百という研究論文に基づいており、その論文の大半はこの一○年以内に発表されたものだ。脳のはたらきについての理解は、その比較的短い期間にすっかりくつがえされた。この一○年は、人間の特性に興味をもつ人すべてにとって、心沸きたつような時代だった。

 この本を読む読者もまさに、心沸きたつような気分になるのではないか。運動を始めよう、というのは苦手な人や嫌いな人にとってはハードルが高いものかもしれない。それでも、ここまで運動のインセンティブがあるのなら、運動こそが自分自身を救ってくれるのかもしれないのなら。
 第十章にはご丁寧に、「運動が嫌いでも落ち込むことはない」というアドバイスもセットで書かれている。運動の効用を大げさに評価するべきではないだろうが、書かれていることには耳を傾けて損のないことばかりだ。
 というわけで、寒い冬だけど逆に身体を暖めるには最適なので、みなさん運動しましょう。というオチをつけつつ自分もちゃんと最近は走れてないことについて自己嫌悪を覚えている。時間のやりくりが一番むずかしい。

 あと、さっきの本に加えてジョン・レイティが書いたもう一冊の本と、走るために生まれたような民族について書かれたまた別の本について触れたかったけど長くなったのでまたいずれ。
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