Days

日常と読書日記。 受験生日記は閉幕です。





見:イオンシネマ綾川

 野球日本代表、いわゆる侍ジャパンのドキュメンタリー映画はこれまで2本作られている。前回のWBCをドキュメントした2017年の映画と、稲葉ジャパン誕生から2019年のプレミア12制覇までを描いた映画だ。前者は見たのだが後者は見ておらず、という前提で今回の映画を振り返ると、分かりやすく主役が用意された映画だったなと感じた。とはいえ監督は三木慎太郎、JSPORTSが映像を提供し(おそらく)、アスミックエースが配給するこれまでの形式の延長なので、WBC決勝から数カ月での公開になったのはもはや慣れたものだなと感じた。

 ドキュメンタリー番組は画面全体をどうストーリーとして描くかが重要なので、特定の個人に焦点を当てることはむしろドキュメントの幅を狭めることになる。なので、誰に・どこに焦点を当てるか、そのバランスをどのように変えるのかが重要だと思っている。その点、この映画は本当に分かりやすい。栗山英樹という稀有な監督の存在がまずいながら、彼は究極の黒子に徹する。主役は選手であり、コーチたちなのだと。

 選手としての主役は、もちろん最後の最後に一番おいしいところを持って行ったのはこの映画のタイトルにもおそらく影響を与えている大谷翔平だろう。これはもう、野球ファンでなくてもそうでなくてもみんなが期待して、期待を全く裏切らなかったという貴重な瞬間を提供した存在である。彼のことが人間ではなく宇宙人とかユニコーンだとか言われるのも理解できなくはないが、この映画は野球中継やニュース映像に映らないバックヤードの映像を膨大に映すことによって、大谷翔平の人間くささを暴いていく。まあ暴いていくというより、単に我々が知らないだけ、ではあるのだが。

 もう一人決定的に重要な存在はダルビッシュ有だろう。これも多くの人が認識しているように、現代日本野球の最高峰の投手の一人である。2020年の短縮シーズンにはサイヤング賞投票で2位の成績を収めた(ちなみに1位の票を得て受賞したのは、現DeNAベイスターズのトレバー・バウアーである)。唯一30代の投手として参加した彼は、高橋宏斗や宇田川といったプロのキャリアがまだ浅い若手選手たちの良き見本となり続けた。全員の兄貴分であり、若手にとってのメンタルコーチであり、村田善則と協働して戦略を考えるバッテリーコーチ補佐でもあった。選手として、選手以上の存在であり続けたことが、この映画が映すバックヤードでこそ確認できるようになっている。

 ダルビッシュから始まり、大谷翔平で終わる。でもその間に目まぐるしく主役が登場するのが強いチームなんだな、ということも改めて感じた。ギリギリの合流になったにも関わらず持ち前の明るさですぐにチームに溶けこみ、攻守ともにファインプレーを連発したラーズ・ヌートバー。彼の不安や練習風景も、映像にしっかり収められている。特に鈴木誠也の不参加が決まり、外野全ポジションで出場する可能性が浮上したヌートバーにとっては、初めての代表参加のわりに責任が重すぎる(しかも一番打席数が回ってくるリードオフのバッター!)。その責任をどのように感じ、どのように克服したかも、この映画の見どころだ。

 そしてやはり重要なのはやはり源田と、佐々木朗希になってくるのだろう。源田は主役というより脇役かもしれないが、日本一のショートとして参加した彼は簡単には替えが利かない存在である。源田自身がそのことをよく分かっていることが、バックヤードの映像で彼が語る言葉や表情を見ていて痛いほど伝わってくる。そして佐々木朗希。3月11日の先発登板も、準決勝メキシコ戦の挫折も、いずれもが彼の野球人生にとって大きなものになったはずだ。通常カメラの前ではお茶らける表情も良く見せる彼が見せた涙や怒り(自分自身の不甲斐なさに対して)は、この映画のカメラだからこそ映し出したリアリティである。

 映画のほぼ半分はアメリカ編になっているので、あのメキシコ戦とアメリカ戦を映画館で追体験できるのはそれだけでも十分に楽しい、そしてずっと書いてきたように普段なかなか見えないバックヤードの映像は、野球ファンの琴線に触れるものが多くある。それだけの価値がある映像の集まりである。そしてまだWBCの興奮が醒めてない時期の公開ということもあり、誰が見ても満足度の高いドキュメンタリーになっているはずだ。



 あいみょんの、新曲ではないが確かに何かが確実にリンクするこの曲を主題歌に採用できたのもかなりビッグヒットなんじゃないかな、と思った。あいみょんファンの佐々木朗希は果たしてこの映画を見ただろうか。

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◆こころの時代〜宗教・人生〜「生き延びるための物語 哲学研究者・小松原織香」(2023年1月29日)








 小松原織香ははてな界隈で有名な人だった(し、いまもそうである。以前ほど積極的にブログを書いていないようだが)わけだが、その彼女が顔をだしてNHKのドキュメンタリーに出演する、というのがなかなか最初は結び付かなかった。研究者としての彼女を追う形だが、もっとパーソナルな部分を突き詰めようとする番組だった。なぜ彼女が水俣に関心を持ったのかも、この番組を見てようやく実感した。

◆BS世界のドキュメンタリー「“銃社会”アメリカの分断」(2023年1月23日)



 簡単に言うとアメリカの銃社会の深刻さをドキュメントした映像だが、アメリカの銃問題はもはや永遠に解決できない問題なんだろうなという認識を持ってしまう。アメリカという国が成立し、発展してきた過程に欠かせなかった自由という権利の負の側面を、銃問題は象徴している。解決困難だとしても社会に存在する問題である以上、向き合うしかないという複雑さも。

◆Dearにっぽん「ギフテッドが見る世界は 〜東京・渋谷〜」(2023年2月11日)





 ギフテッド特集はだいたい警戒して見ることが多い(実際は様々な特性があるはずが、「ギフテッド」というカテゴライズが適当なのだろうかという疑問)けどこれはいいドキュメンタリーだった。10代の少年と20代の青年という、異なる世代、異なる経験を持つ他者同士の交流を丁寧に映し撮るのは、ドキュメンタリーの王道とも言えるし、安易なオチに持っていかないのもよかった。どのような才能があったとしても、自分に適した生き方を見つけるのは容易ではない。だからこそ他者と出会うことが大事なんだろうなと改めて気づかせてくれる。

◆BS世界のドキュメンタリー「ブチャに春来たらば 〜戦禍の町の再出発〜」(2023年2月16日)



 ブチャという地名は、一時期世界で最も悲惨な場所として認識された名前だと思う。それでももちろん、生き残った人はいる。その彼ら彼女ら何を思い、どのような生活を送っているのか。日常は戻っているのか。ドキュメンタリー全体としてのストーリーはなくて、一人一人を訪ね歩くタイプの撮り方はとても正しいと思う。この方法しかなかっただろうとも。

◆NHKスペシャル「ウクライナ大統領府 軍事侵攻・緊迫の72時間」(2023年2月26日)





 最近のNHKスペシャルは制作のクオリティがまちまちのため毎回見る番組ではなくなってきているが(逆に同じ週末夜の枠であるETV特集は質の良い番組を作り続けている)、ウクライナ侵攻開始からの72時間を追ったこの番組は非常に見る価値の大きい番組だった。ロシアとロシア軍がいかにこの戦争を、そしてウクライナのことを「舐めて」いたかが(皮肉も交えながら)よく分かる。しかしそんな態度によって殺された多くの人のことを思うと、人間は残酷な生き物だとも思ってしまう。
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 去年はすっかりサボってしまい、一年分をまとめて記録した。今年はちゃんとやるぞ、と思っていたらもう4月になったので、とりあえず3か月分をまとめて。







 合計で92冊。2,3月は意識的に比較的長く積んでた本(『生命と自由を守る医療政策』や『分裂病の少女の手記』など)を崩せたのが良かったかなと思います。
 あと意識的に小説も多く読んだのでそれも楽しかった。この期間だと呉明益『自転車泥棒』、ソン・ウォピョン『他人の家』、鈴木涼美『グレイスレス』がスマッシュヒット。mediumにもレビューを書いています。







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見:イオンシネマ高松東

 スピルバーグの自伝的映画と聞いたため、私小説なものなのだろうかと予想しながら見ていた。まず面白いのはタイトルがフェイブルマン”ズ”である、つまり複数形になっていることだ。主人公であるサミー・フェイブルマンの若き日々を描くのがこの映画の筋だが、彼がまだ子どもであるがゆえに(最後の場面ですら、大学生年代に相当する若者だ)完全な自由と自律を持たない。単純に言えば、親の管理の下で、コントロール可能な範囲で生きていくことしかできない少年だ。

 コントロール可能な範囲というのは、例えば手持ちの撮影機材や友人たちと協力して自主映画を撮影すること。コントロールできないことは、両親それぞれの選択であったり、移住したカリフォルニアでの高校生活などだ。元々住んでいたアリゾナからカリフォルニアは遠すぎる距離ではないため、一家は車に家財道具を積んで引っ越しを行う。しかし逆にサミーにとっては、かつて過ごした広大な土地(自主映画撮影にも荒野!)を後ろにしていく寂しさが募る演出になっているように見えた。

 新たに住んだ土地での高校生活も、期待していたものとは違っていた。名前をいじられるところから始まり、ユダヤ人であるというだけでいじめの対象になる。実際に経験したいじめよりは表現が和らいでいるという説もあるが(確かにいじめだけで映画を割くわけにもいかない)、いずれにしても引っ越しが彼にもたらしたものは孤立だったと言ってよい。少し、いやだいぶ変わった女の子とは親密になり、撮影を一緒に手伝ってくれるようにはなるものの。

 話を戻すと、この映画はフェイブルマン”ズ”なのである。妹たちの存在はフェイブルマンが成長するに従って後景に退くものの、親二人に振り回されるサミーは、そうであるがゆえに自分で自分の世界を作れる映画の撮影に没頭してゆくのだが、大人たちの生きざまは結果的にエゴイズムを植え付けているのでは? と感じながら見ていた。お前らが好きに生きるなら俺も好きに生きるぞ、的なマインドを。

 もう一つナラティブというワードをタイトルに並べたが、これは両親の振る舞いを見ていた感じたことだ。父も母も、自分の人生を生きることに忙しい。子どもの人生がどうでもいいというわけではないが、父と母の語るナラティブはしばしば重ならず、対立もする。自分で自分の人生を設計し、貫くというエゴイズムがベースにあるナラティブは、フィクションの映画として見る分には楽しいけれど、いい歳した大人二人が自由に生きるのは・・・という子ども目線の複雑な感情を丁寧に掬い上げていたなとは感じた。

 つまるところ、子どもは親を選べないし、住む場所も選べない。多くの場合がそうである。それでも、所与の環境でもがきながらやりたいことを貫くことはできるし、あきらめないほうが良い。あきらめの悪さが実を結ぶかどうかはわからないが、それができることは10代や20代の特権かもしれないな、と思いながら見ていた2時間半だった。青春は苦いが、青春期だからこその魅力もあるということがよく分かる2時間半でもあった。
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 前回の続き。前回はこちら。


 ウクライナ戦争から一年が経過したこともあってか、この一年を改めて振り返る番組が多かった。
 NHKの動画はなぜか埋め込みができないのでリンクを貼っている(そういうところやぞNHK・・・)。しかし改めて小泉悠がめちゃくちゃ出ているな(大学が春休みという事情もあるだろうが)と感じた。

■国際報道2023(NHKBS1)「ロシア人への怒りと恐れが表面化” ロシア系住民には戸惑いも バルト三国のラトビアはいま ウクライナ侵攻からまもなく1年」(2023年2月17日)



 有馬キャスターがラトビアからレポートする特集。ウクライナ戦争関係でラトビアを取材するのはさすがBS1の国際報道だなと思いながら、ロシア(ソ連)に対する怨念の名残を強く感じる特集だった。学校でのロシア語の制限や本などが排除される中、ロシア系住民の複雑な思いを取材しているのも良い。

■報道1930(BSTBS)「バイデン大統領キーウ電撃訪問 “仲裁”強調する中国の狙いは… 」(2023年2月21日)


■荻上チキ・Session(TBSラジオ)「【特集】ロシア軍の侵攻から1年、小泉悠さんと考えるウクライナ戦争のこれまでとこれから」(2023年2月21日)


 小泉悠ゲスト回。50分ほどある特集なので、この1年だけではなく、この1年に連なる過去の出来事(2012年のプーチン大統領返り咲きや、2014年クリミア侵攻に対する制裁についてなど)の振り返りもあるのがよい。

■ニュースウォッチ9(NHK)「【専門家解説】プーチン大統領演説から何を読み取る?国民の支持,中国との関係,制裁の影響…ロシア現地取材で徹底分析」(2023年2月22日)

 小泉悠のゲスト回。
解説部分はロシア市民が戦争をどうとらえているかの分析と、経済制裁の影響やロシアの兵器の現状について。制裁の効果がないわけではないが、制裁だけでは難しいという見立て。兵器についても戦車を多く失っているが、回復もしている。

■日本経済新聞「【ウクライナ侵攻1年】小泉悠氏「プーチン失脚でも終わらない可能性」」(2023年2月22日)


 「一つ大きいのは軍事力が存在していて国家間の対立が存在していれば、それはいつか使われるということを改めて可視化した」という小泉悠の語りから始まる番組。22分というコンパクトな内容だが、この一年間を振り返る上では面白い内容だった。中国の動静についての言及もあり。
 防衛3文書については、安全保障のコミュニティが長年言ってきたことを形にしたものだろうと述べた上で、「政府の文書に書く前に国民に一言あってしかるべきだった」と不満を述べているのも印象的だ。「いかにして戦争を起こさないようにするか」は政府や防衛省だけの仕事ではない。民主主義の思想に則った上で日本全体を巻き込んで考えていかなければならない、ということなのだろう。

■日経プラス9(BSテレ東)「ウクライナ侵攻1年 アメリカが描く戦争終結のシナリオ」(2023年2月24日)



 ロシアは攻勢を強めていると言いながら、アメリカ大統領がキーウを(あっさり)訪問した、というのはロシアと世界双方に対して大きなメッセージになったはずだ、との鶴岡の指摘は重要。アメリカでは共和党が支援疲れを訴える中で、バイデンがウクライナ支援を改めて現地表明した意義は大きい。

■国際政治ch「細谷雄一×高橋杉雄×鶴岡路人「ウクライナ侵攻、1年」 」(2023年2月25日)



 最近刊行になった鶴岡、高橋それぞれの単著の紹介を挟みながら、ウクライナ戦争一年の振り返り。ウクライナの死者数に言及する場面で、まだ埋もれている未計数の膨大な死者数(マリウポリなど)がいるはずだ、だから今わかっているよりもっと被害は大きいはず、という指摘は印象に残った。

■豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス「ロシア大攻勢の”初戦”は失敗か?ウクライナ戦争2年目の戦局は」(2023年3月2日)



 この一年間を振り返りながら2年目の攻防や展開を予測する動画。バイデンのキーウ訪問や消耗しながらもバフムトが持ちこたえていることを挙げながらロシア軍の「失敗」を指摘。また、ワグネルとロシア政府との緊張関係についてはプリコジンとショイグ国防相との間の対立があるのだろうと解説している。


■豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス「ロシアは敗北しないのか?ウクライナ戦争2年目の論理と欧米の失敗」(2023年3月2日)



 前記の動画と同じ日に公開されているが、こちらは戦局からいったん目を外し、ロシアが戦争を継続する論理とその継戦能力についての分析。兵器の損傷は激しいが、20世紀型のオールドタイプの兵器はまだ残っており、生産可能。財政力については原油価格の上限規制を欧米が仕掛けているが、こうした経済制裁は即効性というより、中長期的なダメージを与えるものという見立て。


■報道ステーション(テレビ朝日)「「プーチンにとってその程度の命」ロシア優勢の裏に“非人道的”戦術」(2023年3月9日)



 高橋杉雄ゲスト回。バフムトの攻勢でロシア軍の死者が膨大に上がっていることはこれまで指摘されてきたが、そのロジックはプーチンの戦争の目的より人命のほうが軽い、大義のために死ぬのだからむしろ良い、という解説。同じようなことは80年代のイラン・イラク戦争でも同じようなロジックで、訓練を受けてない兵が地雷原を歩いて突破した、という事例があったとのこと。いずれにしても、人の命が軽すぎることを改めて感じさせられる。

■報道1930(BSTBS)「ウクライナ“大消耗戦”の真実 ロシア“動員兵”「消耗品でも肉片でもない」」(2023年3月16日)



 小泉悠、兵頭慎治ゲスト回。前半はアメリカの無人機墜落について。これで緊張感が急激に高まってはいないものの、大国間のにらみ合いが続くとこういうことが起こりうる、それはリスクだという小泉の指摘は重要。戦争のエスカレーションはお互い回避したい中での事象であるため。中盤ではロシアの消耗についての議論になるが、大量動員をして人海戦術的な戦いをやるのはソ連時代からのやり方で、ロシアからすれば想定の範囲内。つまり、消耗が激しいからと言って戦争を止めるということにはならないだろうと兵頭が指摘している。

■テレ東BIZ「“第2のウクライナ”に?ロシアが欧州最貧国・モルドバの政権転覆計画か」(2023年3月17日)



 隣国であり、凍結された紛争地域である沿ドニエストルを抱えるモルドバ。貧しい国であり、インフレに苦しむ市民からはサンドゥ大統領に対する不満も噴出している。そんな中でロシアによる、サンドゥ政権転覆の計画があったことを大統領自身が公開した。アメリカも同じような認識を示している、と番組は解説している。モルドバ国内の反政府デモにロシアの手が及んでいることも狡猾であるし、沿ドニエストルをも利用しようと試みている。これがロシアのハイブリッド戦争である、と。

■国際政治ch「大庭三枝×東野篤子×鈴木一人「日本の外交力」」(2023年3月25日)



 もともと日本外交に焦点を当てた回だったが、岸田のキーウ訪問のタイミングと重なったため、多くの時間をその評価に割いている。物議をかもした某しゃもじについてここまで議論が交わされるのは尺に余裕のあるネット番組ならでは。
 また、民主主義と権威主義といった単純化して理解しようとする向きについては、「それぞれの国にはそれぞれの利害がある」ということを改めて主張している鈴木の言葉が印象に残った。今回のウクライナ戦争を見ていても、どちらでもないグレーな領域は多分にある(し、そういった勢力が早期の終結や和平を望んでいるかもしれない)。

■角谷暁子の「カドが立つほど伺います」(テレ東)「ロシア軍 失速? 中国はどこまで支える?」(2023年3月28日)



 兵頭慎治ゲスト回。バフムトではここしばらく激しい戦闘が続いているが、ゼレンスキーのバフムト訪問や大きく打撃を受けているロシアの失速をレビューする。ロシアほどではないがウクライナの消耗も大きいため、欧米のウクライナ支援は今後の戦況にとってやはり引き続き重要なキーになってくる。
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見:イオンシネマ綾川

 間違いなく言えるのは、これはボーナストラックなんだなということだ。何より映画1本の分量として、70分というのは短い。短いうえに、70分の中に学園時代最後のライブと、その後の彼女たちの姿を描いているので、どう考えても詰め込みすぎである。つまりこれは、何らかの続きのストーリーを描くものではなくて、「続きっぽいものを描くことで、とりあえずこのシリーズにケリをつける」ということなんだろうなということだ。(わざわざ10thって数字を打ってる時点で見る前からそう思っていたけどね!!)

 70分でこの映画が試みていたことは主に二つ。一つはいちご世代の卒業をちゃんと描くこと。もう一つは、いちご世代の卒業後のリアリティを観客に見せることである。『アイカツ!』の本編が放映開始から約10年、本編の放映終了(あかり世代含む)からもすでに長い年月が経っており、そのため明確に当時のファンに届けるものとして作られていることがよくわかる。つまり、「かつてより大人になった」ファンに対してのボーナストラックである。まあ、10年経ってもまだ10代という人もいるわけだが(映画館には制服女子高生の二人組もいた)それはさておき。

 いちご世代の卒業は、そういえばよく考えたら描かれなかったなと思い出す。あかり世代の成長と挫折、そして飛躍を描くことでアイカツ!の最初のシリーズは178話という長い長いストーリーを終えるが、それは一つの物語の終わりにはなっても、いちご世代の未来までは描かなかった。ただ、幸運なことに『アイカツスターズ!』や『アイカツフレンズ!』などの後継シリーズが続いたこと、また歴代シリーズのキャラクターが折り重なって登場する『アイカツオンパレード!』というコンテンツが登場したことで、いちご世代をもう一度描く余地ができたのだと解釈している。

 この映画の原型は元々2022年に『アイカツプラネット!』の劇場版と同時上映されており(ということを最近まで知らなかったが)、そこに新規エピソードを追加したのが2023年公開版になっている。2023年に描くということで、改めて10年後、10周年を記念すべき一本になったのは間違いない。だから「いちご世代の卒業後のリアリティを観客に見せること」という、この映画のもう一つの試みに大きな意味が乗っかってくる。

 以前シノハラユウキさんと紙草さんが企画・主宰した同人誌『MIW―Music of Idol World―』に、「ラブライブ声優を卒業した彼女たちの途上――南條愛乃、新田恵海、三森すずこの現在地」というエッセイを書く機会があった。



 このエッセイで言いたかったことは、以下のようなことだ。アイカツ!シリーズとほぼ同時期にアニメ化が進行したラブライブ!シリーズが続く中でキャストたちの卒業もファンは経験する。そのため、「二次元アイドル声優の演者を卒業しても声優としての人生が続く彼女たちをいかに応援し続けることができるのか」を、過去の雑誌記事などから新田、南條、三森の発言を引用しつつ彼女たちの経歴や発言を紐解いたものだった。コンテンツが終了(あるいは一区切り)しても、コンテンツの供給が終わっても演者たちの人生は続くのである。もちろん、彼女たちが演じることを辞めても。ならば、その時にファンやオタクはどのような心構えで彼女たちを応援したり祝福したりすることができるのだろうか。そういったことについて、(今書いているこのエントリーもそうだが)個人的な感覚を書いた文章だった。

 この観点を、この映画にも同じように導入できるのではと考えた。映画に当てはめる場合、演者たちの存在というよりはキャラクターたちの存在を考えるわけだが、コンテンツが一つの区切りを迎えてもなお、どこかでいちごやあかりや蘭は自分たちのやりたいことをやっていて、あるいは目指していて、そして3人の関係は途切れずに続いていくんだろうな、という予感を予感ではなく形にしたのがこの映画なのだろうと思ったからだ。

 さっきのエッセイを書いた2016年末の段階では「推す」という概念はまだ一般的ではなかった。推すというよりは見守る、あるいは応援する、祝福するといった表現の方が個人的には今でもしっくり来る。コンテンツの供給がなくなっても、どこかに存在するのだろうという思いを持ち続けることは可能なはずだ。二次創作という手法を使わなくても、思いを馳せることはできる。また何より、時間の流れが曖昧になりがちな二次元世界の表現において、いちごやあかりたちがちゃんと「大人になる」プロセスを描いたことは、アイドルアニメ史上においても重要なことではないだろうか。

 もちろん「大人になる」過程で経験する現実は生易しいものではない(という描写もきちんとされている)。けれど、彼女たちの姿を見ていると希望的な未来を十分に想像できる。努力と友情が紡ぐSHINING LINEが、まだ見ぬ明るいSTARWAYに間違いなく繋がっている。未来はきっと、輝いているから。
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 約一年前にロシアによるウクライナ侵攻が起きてからBSの報道番組を中心に番組をほぼ丸ごとyoutubeにアップしたり、テレ東のようにyoutube用の独自番組を作成したりと、結構ネットでも見られるものがたくさんあっていろいろなものを見ていた。そのいろいろを、備忘録も含めてまとめとおけばいいんじゃないかと思ったのでまとめてみたエントリー。

 古いものだと戦況がかなり変わっているので、比較的最近見た中から10本(とおまけで1つ)選んだ。どれから見ても面白いと思うので時間のある時に、テレワークや家事の合間などにどうぞ。

■豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス「ウクライナ戦争解説セレクションぁ岾戦300日」」(2022年12月30日)


 テレ東の豊島アナが定期的に公開している番組の総集編第4弾。年末年始にまとめて振り返るにはいい番組でした。小泉悠がゲスト回もあり。 

■報道1930(BS-TBS)「ロシア軍「携帯使用」“失態”発表の意図/兵士が証言 暖冬の最前線で“新たな事態”」(2023年1月5日)


 タイトルは携帯使用の話になっているが、この回の重要なポイントはロシア、ウクライナそれぞれの新年のメッセージを小泉悠が分析しているところ。

■報道1930(BS-TBS)「激戦地バフムト陥落か 戦車供与300両超で始まる“空の戦い” 」(2023年1月30日)


 まずバフムトでボランティア活動をしていた日本人男性のレポートから始まるが、こうした生身の戦場を知ることも定期的にやっておくべきだなと感じる。海戦初期はブチャやマリウポリなど、過酷な現場の報道が多くされていたが最近は少し減ってきたな(当社比)と感じていたので。


■中村ワタルの欧州沸騰現場「ウクライナから報告!国営通信 平野さんと考える戦時下のメディア」#103(2023年1月31日)


 「ウクライナのメディアってどんなのがあるの?」から「それぞれのメディア(国営、民間、公共、ネットetc.)の作られ方」まで、動画は短いが話題は広く、初めて知ることが多くて面白い番組だった。平野さんは開戦当時からキーウで積極的に情報発信をされているメディア人なので、彼の話す話題は非常に信頼がおける。

■角谷暁子の「カドが立つほど伺います」(BSテレ東)「米独が戦車供与 新局面を迎えたウクライナ情勢の行方は 東野篤子(筑波大学教授)」(2023年1月31日)


 前半は各国からの戦車供与の話。何がどの程度供与され、どうやって運用していくのかという実践的な話が面白かった。後半はロシアの兵器や財政の現状、今後予想されるスケジュールなど。兵器も厳しいし、財政的にも余裕はない状態でいつまで戦争を続けられるのか。エネルギー価格の上昇もひところより一服したためロシアの収入は逓減し、各国の経済制裁の効果は今年になって効き始めるのではという指摘も興味深い。

■PBS FRONTLINE"Putin and the Presidents: Julia Ioffe (interview) "(2023年2月1日)


 ロシア出身で、プリンストン大学を卒業後に複数のメディアで勤務したのち、いまは「Puck News」というショートニュースを配信するメディアに所属しているJulia Ioffe(ジュリア・ヨッフェ)のインタビュー。日本では小泉悠が時折試みているが、ここではIoffeががアメリカの視点からプーチンの脳内を解剖し、彼の中でgeopoliticsがどう見えているのかを紐解いてゆく形式のインタビュー。

 インタビュー序盤ではっきりと、これはウクライナとの戦争ではなくアメリカとNATOとの戦争だ、つまりワシントンとブリュッセルとの戦争だ(とプーチンは考えている)と話しているのが印象的である。インタビューは60分合って全部をちゃんと見たわけではないが、基本的にloffeはプーチンのこうした観点をフォローするような形で語り続けている。抽象的で複雑な議論ではなく、非常にクリアで明快な議論をしているところも印象的だ。

 PBSは以前"Putin's Road to War"という番組を制作しており、その際もloffeがインタビューを受けていたが、アメリカではウクライナ戦争の論客として継続的に情報発信をしているようだ。




■山川龍雄のニュースの疑問「解説:戦争はいつまで続くのか〜ロシアとウクライナの継戦能力」(2023年2月3日)


 山川龍雄は経済記者出身なので軍事の専門家ではないが、テレ東の山川解説はいろんなデータを示してくれるのがいい。ウクライナの鹵獲戦車の話とか、ロシアに対する援助の乏しさなどはやや楽観的な観測に見えるものの、ロシアが所有する兵器の現状は厳しそうである。とはいえウクライナも今後継続的な支援がなければ戦争の継続は難しいので、一進一退はしばらく続いてしまうんだろうなという感想。

 BSテレ東「カドが立つほど伺います」のフォローになっているので併せて見ておきたい。

■IOG地経学オンラインサロン「ウクライナ侵攻から1年」(2023年2月11日)


 鈴木一人と東野篤子の約1時間の対談番組。この番組は開戦当初から継続的にフォローしており、またテレビ番組のようないろいろな制約もないため、ざっくばらんとしたスタートながら密度の濃い議論がされていて面白い。

■日曜スクープ(BS朝日)「【ロシア大規模攻撃】激戦地で攻勢“兵力倍増か”ウクライナの反撃は」(2023年2月12日)


 今激戦になっている東部バフムトの解説と、今後の大規模侵攻の見通しについての解説。マップを見ながらの高橋杉雄解説はさすがといったところ。

■報道1930(BS-TBS)「ロシア「大規模攻勢」開始か 戦車・戦闘機供与めぐる課題は」(2023年2月14日


 「日曜スクープ」とややダブる内容が多いが、こちらは今後の展開を考える上での兵器の話が多め。

朝日新聞国際報道部(Twitter Spaces)「侵攻1年どうなるウクライナ」(2023年2月19日)


 おまけ的に追加。鶴岡×東野夫妻がセットで出演しながら、ウクライナからの現地リポートも含んだ密度の濃い番組。ツイッターの仕様だと1カ月は録音を聞けるはず。


 今回はこんな感じにまとめてみた。
 戦況が目まぐるしく変わるのでもっと早くやっておけばよかったかなと思いつつ、次回以降も続けていきたい。もうすぐ開戦から1年になるので、そういった感じの特集番組が増えそうだ。
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 ドキュメンタリーは比較的よく見ているが、見たものの感想を短くツイッターに放流して終わりになってしまうことが多かった。このブログで時々長い文章を添えることもあるが、すべてのドキュメンタリーに1本エントリーを書くことは現実的ではないので、今回こういう形をとってみた。

 なるべく続けたいが、とりあえず備忘録として使っていければいいかなと思っている。

**************

◆BS世界のドキュメンタリー「密入国 闇の組織を追え −英コンテナ39人遺体事件の真相−」(2022年10月27日放送、BS1、50分)


 この事件のことは知っていて、その壮絶さには言葉を失うし、この番組で死ぬ間際の当事者の語りや家族の語りなどを聞くとエグ……と思いながら見ていた。ただ、この番組は非常に優れた国際犯罪ミステリーを謎解くようになっており、これがフィクションであればすぐれたシナリオとして楽しめたのに、という複雑な思いも抱かせる作りになっていた。

◆ETV特集「ブラッドが見つめた戦争 あるウクライナ市民兵の8年」(2022年11月5日放送、ETV、60分)





 ここ最近見た中では最も印象に残っている1本。下手すると、いやしなくても2022年に見た中ではベストだったかもしれない。西野晶という、ある若い制作がウクライナ戦争についてネットサーフィンしている中で彼女が「たまたま発見した」ブラッドという青年との交流を描く。

 もうすぐ戦争勃発から一年が経つが、ウクライナ戦争をどのようにとらえるかは本当に難しい。その難しさを、改めて突きつけられる一本であるとともに、ブラッドという青年のビルドゥングスロマンにもなっている構成が非常にうまいなと感じた。

 彼は2022年に初めて従軍したのではなく、それ以前のロシアとの衝突ですでに従軍経験があったことが、日常を捨て、非日常の舞台へと誘ってゆく。なぜ、再び戦場に戻ったのか。「戦間期」に彼はどのような人生を送っていたのか。彼はいま、戦場で何を考えているのか。一つ一つの言葉、表情、そして母親の語る息子への思い。すべてを目に焼き付けたくなる一本。

◆「こうして僕らは医師になる〜沖縄県立中部病院 研修医たちの10年〜」(2022年12月3日放送、BS1、100分)


 2012年に放映されたドキュメンタリーの10年後を追跡したドキュメンタリー。小堀医師の在宅医療のドキュメントを継続的に撮ってきた下村幸子が本作も手掛けており(10年前もそうだったらしい)、その意味で医療現場の躍動感を、そこで生きる医師それぞれの人生の一端が見えるのがとても面白かった。




 何人かの医師が中心的に取り上げられているのが、一橋で医療経済学を学んだあとに長崎大学医学部に編入して、初期研修後に沖縄での離島医療や海外での留学などを経ていまは関東で在宅医療をやっている女性医師・長嶺由衣子の姿がめちゃくちゃ印象に残った。パワフルなのは当然なのだが、芯の強さ、純粋さというものを持ち続けている姿がとてもいいなと思った。小堀医師もそうだったが、市井で生きている人間一人一人への関心や思いというものが、在宅医療では最も重要なのではないかと思う。

 


◆映像の世紀バタフライエフェクト「ナチハンター 忘却との闘い」(2022年12月12日放送、NHK総合、45分)






 自分の中でナチスの存在とナチスに対する反省というものは、それ自体が少し古い歴史的産物だと思っていたけれど、全然そうではなくて現代につながってるんだ・・・! と思わせてくれる一本。
 
 「映像の世紀バタフライエフェクト」というシリーズがそういう「時代を超えたつながり」を毎回テーマにしているからこその(ある種意図的な)構成だったとは思うが、シリーズの中でも良くできた一本だったと思う。逃げようとする人間の邪悪さと、逃げる人間の追い詰めようとするまた別の人間の執念の強さの双方を、ドラマチックに描いている。

◆未解決事件「File.09松本清張と帝銀事件」(2022年12月29日・30日放送、NHK総合、150分)






 このシリーズはコストがかかっているわりに割と当たりと外れがあるかなと思っているのだが(前回のJFKはわざわざ今やらなくても、と感じた)今回の帝銀事件特集は当たりの部類だなと思った。ドラマ編もドキュメンタリー編も両方面白かったのは、ロッキード事件を扱った回と匹敵する。

 ドラマ編は大沢たかおの演技と、彼のキャラクターを生かした安達奈緒子の脚本が面白く、非常に生き生きとしている松本清張を現前させることに成功していたように思う。ドキュメンタリーはドラマ編の流れを追随しつつ、そこで描かれなかったことや、清張がたどりつこうとして跳ね返された政治的事情を戦後の非常にややこしい文脈の中で想像させる面白い構成だった。
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見:イオンシネマ高松東

 2022年はそこまで多くの新作映画を見たわけではないが、年末に見たこれが結果的にぶっちぎりだなと思った。声優交代についてツイッターがかなり燃え上がっていたし、発表になったyoutube配信も少しだけ見ていたので(だからと言ってどうのこうのはなかった。さすがに20年以上経てば演者が交代するのは現実的なので)特に前情報を仕入れたわけではなかったが、そのスタンスで見に行って良かったなと思う。普段はネタバレ全然OK主義だけど、この映画に至っては何も知らずに、けれども原作のシナリオは把握している、という状態で行った時の高揚感がたまらないからだ。

 例えば、2時間でインターハイ2回戦の山王工業戦を描き切る、というのは確かに今新たに新作アニメを作るならそれくらいのことをやらないとインパクトが足りないとは思っていた。結果的に1回戦の豊玉戦はほぼカットされているが、これは原作からの連続性をあえて切断するやり方だなと思った。つまり、原作を知らない人でも『THE FIRST SLUM DUNK』を映画館で見れば十分楽しむことができる、そういうものを目指したのだろうと思う。(ちなみにTHE FIRSTの意味は多義的らしいが、はっきりとは明かされていない)

 宮城リョータを映画の主軸に据えたのは、一つの案として面白いと思った。とはいえ同時に、リョータである必然性はなかったようにも思う。桜木以外の4人の過去は原作でも十分に描かれていない(桜木自身もそこまで分厚くはない)ため、ブランクやケンカからの再起を狙う三井を主軸にしても、最後の夏にすべてを懸けるゴリにしても、たぶんどのメンバーを主軸に据えても良質な物語は作れただろう。ただ、三井やゴリにあってリョータにないのはフィジカルだ。スタメンの4人の中で、明らかにリョータだけが小さい。

 最初から最後まで、ある意味では小さくて幼かった(身長も、精神的にも)リョータがいかに大きく成長していくか、を見せたかったんだろうなと思う。リョータを描くために家族の物語が動員されたのは必然と言えば必然で、沖縄由来の「宮城」という名前を持った少年がいかにして沖縄を離れて湘南の公立高校へやってきたのかは、一つの物語として魅力的である。三井や流川のようなスーパースターではない、桜木やゴリのようなフィジカルモンスターでもない、ただ小さくて俊敏な選手が大男ひしめくバスケットのコートで躍動するのは、多くの観客に刺さるものがあるのは確かだろう。

 これもあえて言うまでもないが、小さいリョータを主軸に据えながらその他9名の大男たちが奮闘し、躍動するバスケットのコートを、これほど生々しく描けるとは思わなかった。もう90年代ではなくて2022年なんだということを、声優交代以上に実感することができた。原作とアニメをほぼリアルタイムで目撃した後、2022年まで生きてきて本当によかった、と思えた。
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見:Jaiho

 少し前から意識して韓国の映画を見るようにしているが(本数はまだまだ少ないけれど)、その中でも今回Jaihoで2か月間配信されていた『最善の人生』はインパクトのある映画だったと言える。『はちどり』を見た時のような、10代の少女の危うさをもろさを感じたし、『はちどり』よりもさらに少女たちの心理の内側を、まるでナイフで刺すように視聴者に提示していく。少女が少女であるがゆえの痛みと、あと寂しさのあふれた映画だった。

 主人公はイ・ガンイという少女で、とりたてた特徴があるわけではない高校生だ。両親と暮らしており、きょうだいはいなさそう。同じクラスにはソヨンという、黒髪で長身の美人がおり、彼女についていれば最善になるはずだ、という思い込みのもと、彼女と行動を共にするようになる。ある日学校を抜け出し、その流れで家出をし、ソウルへと逃亡する。

 もう一人、アラムという同級生がおり、彼女の案でソウルの半地下暮らしをしながら水商売をするようになる。ショットバー的な店で働く描写があるが、未成年がこうした店で労働することはかなり法的には怪しいだろう。それを分かった上で、逃亡を続ける。男がらみの、少し危ない場面にも遭遇しながら、一瞬だけガンイとソヨンの心理的な距離が接近してゆく。映画を見終えた今では、ここが一つのピークで、ガンイが最も幸せな瞬間の一つだったかもしれない。ソヨンにソウルまでついていったガンイは、親に連絡して突如家出を終わらせるソヨンにも逆らうことはない。

 そしてここからがこの映画の重要なところだ。家出中からギクシャクし始めた3人の関係は、学校に戻っても容易には回復しない。むしろどんどん悪い方向へと変わってゆく。ソヨンに好意を抱いており(それが同性に対する恋愛感情かどうかは明示されないものの)、学校に戻ってもソヨンと一緒にいたいガンイは、ソヨンの変容を簡単に受け入れることができない。アラムの助言もなかなか聞き入れない。そしてガンイもアラムも、ソヨンからは敵視されてゆく。

 ガンイは基本的に感情を表に出すことが少ない。何度も家出をし、親から強い叱責を受ける場面もあるが、淡々とそれを受け止める。感情の出し方が分からないとも言えるし、単にどうふるまっていいのか分からないのかもしれない。それでも、映画の後半部分についてはソヨンの変容を受け入れられない自身の感情に対する苛立ちが、少しずつ表に出始める。ソヨンのおかげでガンイは、自分自身の感情に気づき、表明するようになってゆくのだ。

 つまるところ最初から最後まで、ガンイはソヨンと離れがたかった。もっと一緒にいたかった。だからこそ、そのガンイの願望が挫折したこと、挫折させられたこと、あるいはソヨンに対する大きな失望が、最後の最後にハンマーで叩くように強い一撃となって表れる。ガンイのことを、彼女のした行為を擁護することはできないが、それでも彼女のことを単に不幸な少女だったとは思いたくない。一途な、純粋な彼女の気持ちを、あの行為のあとにも改めて思いやりたい。

 普段は声も表情もほとんど変えないガンイは、最後に思いっきり涙を流すところが、強く印象に残った。こうした表現が適切かどうかは分からないが、とても美しいシーンだったと思う。


最善の人生
イム・ソルア
光文社
2022-10-19

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